第2話 働きたくないっ!
「冬莉、いい加減に起きなさい。今何時だと思ってるんですか!?」
週末は市場は休みなので早起きしない。
祝日は起きるけど。
理由は稼ぎ時だから。
日本だけ休日である祝日は相場が派手に暴れる。
それを予測するだけで平日より利益が大きいから。
今日は土曜日。
別に早く起きる理由がない。
敢えて言うなら愛莉が五月蠅い。
「そのだらしない生活態度を少し改める努力をしなさい!」
などなど小言を延々と聞かされるので仕方なく家を出る。
「どこに行くのですか?」
「ちょっと小銭稼いでくる」
「どうせギャンブルでしょ!真面目に稼ぐ気はないの?」
「借金なんてしないから心配しないでよ」
そう言って家を出る。
パチンコやパチスロなんて効率の悪いギャンブルはしない。
麻雀もそうだ。
当たる台を見分けたり、どの牌を狙ってるかなんてわかり切ってるんだけどとにかく時間がかかる。
それならまだ競輪場やボートの舟券買って当てた方がいい。
まあ、大穴狙おうとするから時間はかかるけど。
それも家でネットで買った方が早いと思うんだけど実際にテレビでもなんでもいいから選手を見てみないと分からない。
競馬の有名なレースならテレビ中継を見ながら当てる事は出来るけど、倍率や成績を見てもちんぷんかんぷんだし、勉強しようって気にもならない。
そんな努力するなら真面目に働く。
まあ、小遣いくらいは日頃の労働で稼いでるから時間つぶしくらいは出来る。
私はニートだが引きこもりではない。
適当に服を見て廻ったりランチをしたりして時間を潰す。
それでも夕飯までは帰りたくないから、結局ネカフェで時間を潰すことになる。
とりあえずゲームにログインだけして漫画を読む作業。
するとチャット音が聞こえた。
「LiLiさんこんにちは」
クトルからだ。
「こんにちは」
「今日は休み」
「うん」
永久に休みだけど。
「暇だったらダンジョン行かない?」
そのダンジョンクトル一人でいけるんじゃないのか?
「まあそうだけど偶にはペアでもいいかなってね」
「別に私はいいけど」
どうせ暇だし行くことにした。
そのダンジョンは101Fまである塔を上るというもの。
昔は大人数で行ったり、TAで30分を切るとかしてたけど今はソロで20分台を叩きだすくらいのお手軽なダンジョン。
お手軽なのでレアもそんなに高い値段で取引されずに廃れていた。
私とクトルはお互いアタッカーを用意していた。
機動力はお互いある。
すると張り合うように競争を始める。
耐性?そんなもの一々とるような強敵ではない。
あっという間に攻略してしまう。
レアらしいものもなかったし、何よりドロップしたアイテムを全く拾ってないので精算はなしにした。
「やっぱりLiLiさんすごいね」
「クトルも十分強いじゃん」
「僕のはほら、強職だから」
確かにそうだけど。
クトルのは初心者用の強キャラ。
しかし運営は考えていなかった。
そんなキャラを廃プレイヤーが使えばどうなるか?という事を。
答えは簡単。
どうしようもないキャラが出来る。
そしてクトルはどうしようもないキャラだった。
アタッカーからヒーラーまで自分1人で完結してしまう強キャラ。
鯖でも5本の指に入るほどの強キャラじゃないだろうか?
自慢じゃないけど私のキャラもそれなりに自信があった。
装備も最高レベルの物を揃えていた。
だけど一つだけ欠点がある。
それは脆さ。
つかえる武器の問題で耐性が他職に比べて非常にもろい。
そこが魅力的なんだけど。
その分火力を出そうと思えば天井知らずで伸びる。
とはいえクトルのキャラほどではない。
そんな感じでお互いの良い所を褒め合っていた時だった。
「LiLiさんはいつも何時ごろ接続するの?」
こういう質問をされると困る。
「いつでもいるよ」
と、答えるとする。
「LiLiさんは学生さん?」
と、大体返ってくる。
まあ、こう言ってくる奴は大体直結と呼ばれる人種なんだけど。
直結とはゲームを通じて現実で異性とあってホテルに直行する馬鹿の事。
適当に焦らして色々貢がせて最後はブロックしてお終いなんだけど、ちょっとがっかりだった。
クトルもその人種だとは思わなかったから。
「私今無職なの」
「そうなんだ……」
まあ、予想していた通りのリアクションだ。
次は「どこに住んでるの?」か?「VCしたい」か?
「じゃあさ、夜ギルドの集まりが無い時に一緒に遊ばない?」
そう来たか。
意外と慎重派なんだな。
「いいよ~」
こう言っておけば後は勝手に色々貢いでくれるだろう。
特定の相方と呼ばれるキャラを作るつもりはなかった。
なんでゲームでまで縛られないといけないんだ。
「じゃあ、フレンド登録しておいていいかな?」
フレンド登録。
ゲームの機能の一つ。
フレンド登録しておけばそのキャラがログイン・ログアウトした時に分かる。
当然あとからブロックすることは出来る。
馬鹿馬鹿しいチャットログを残したら速攻運営に通報するだけ。
ちゃんとスクリーンショットを撮るのも忘れない。
しかし、それでいいのか?
フレンド登録は登録したキャラしか分からない。
1アカウントに付き13キャラ作れるこのゲームではあまり意味がない。
それにVC機能付きのチャットツールを利用しているのにそっちのが便利じゃないのか?
「チャットツールの方じゃなくていいの?」
なぜか知らないけど私は聞いていた。
「そっちはチャンネルのチャット見れば大体わかるから」
一々自分がログインしてるかどうか見張られているのも嫌でしょ?とクトルは言う。
……あれ?
私の思い違いだったのだろうか?
資産的にもいいカモだと思ったのだが見込み違いだったか。
「まあ、それもそうだね」
そう言ってフレンド登録を受理する。
「じゃあ、俺そろそろ夕飯の仕度しないと」
「クルトが作るの?」
「他に作ってくれる人いないから?」
「ひょっとして一人暮らし」
「まあね。じゃ、なきゃこんな時間にゲームしてないよ。LiLiさんもそうじゃないの?」
無職で一人暮らしは無謀じゃないか?
まあ、私は出来るけど面倒だからしない。
今まではそう思っていた。
でも今は違う。
クトルがとても立派に見えた。
それに引き換え私は……。
「じゃあ、私もそろそろ家に帰るわ。今ネカフェなんだ」
「わかった。じゃあまた夜に」
そう言ってお互いログアウトする。
私は精算をしてネカフェを出て家に帰る。
ネトゲーのキャラの向こう側が気になったのは初めてだった。
自分の環境が如何に甘えているかを思い知らされた気分だった。
私が家に帰ると、愛莉が夕飯の支度をしていた。
「どこいってたの?」
「遊んでた」
「全く……着替えてきなさい。もうすぐ夕飯出来るから」
私は着替えるとキッチンに向かう。
「あら?今日は早いのね」
「愛莉……何か手伝う事無い?」
「当然どうしたの?」
「まあ、色々思うところがあってね」
「うーん、じゃあお皿を並べてくれる?」
そうして私は愛莉の手伝いをする。
夕食後の片付けも手伝っていた。
「ありがとう、助かったわ」
愛莉が笑ってそう言う。
私は風呂に入って部屋に戻ると、PCを起動する。
「あれ?LiLi。今日は遅いな」
「まあ、色々あってね」
「何があったんだ?」
「色々」
「……ふーん」
私の所属するギルドはまったりギルドと呼ばれる類の物。
あまりプレイヤーの中の個人情報を求めてこない。
とても居心地のいいギルド。
クルトも単なる遊ぶ時間を合わせて一緒に遊びたいと思ったのだろう。
働きたくない。
だけど働かないと生きていけない。
食べ物も自分で準備しないといけない。
私のやってる事はただの甘えなのだろうか?
その事に気付かされた。
だけど、その事を気づかせたこの感情の正体は分からなかった。
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