第209話 第2開拓村

「空中護衛艦、クレイオス。山脈猪マウンテンボアの迎撃を行っている。討伐は難しいかもしれないが、最低でも追い払う程度は可能だろう」


「あ、あんなものを空に……」


 上空を過ぎ去った巨大な

 <パライゾ>から派遣された少女は、事もなげにその名を教えてくれた。


「追加戦力を投下してくれた。安全確保もできる」


 少女の言葉の通り、上空から何かが降ってくる。


 それは、轟音を響かせながら次々と街道の上に着地した。


「お、おお……ゴーレムが空から……」


 開拓村ラーランから避難するキャラバンに、4体のゴーレムが加わった。

 元々、キャラバンにも車輪で移動する護衛ゴーレムが5体おり、村からは2体。計11体が、このキャラバンの護衛に付いたことになる。


「……」


 とはいえ。

 空から降ってきたゴーレムは、先程頭上を通り過ぎた巨大な船から降りてきたものだ。

 何か小さな物をその腹から落とした、と見えたのだが、まさかそれが、あの守護神の6脚ゴーレムと同じものだったとは。


 つまり、あのクレイオスという船は、とてつもなく巨大だということだ。


「西の開拓村、クラヴィーンへの追加戦力も投下する。その後、山脈猪マウンテンボアを攻撃する予定。うまく撃退できれば、村も助かるはず」


「な、なるほど……」


 何とか命が助かった。

 そう思っていたのだが、もしかすると、村も何とかなるかもしれない。


 そう聞かされ、防衛担当官と村長は、呆然としたまま頷いた。

 何を言われているのか、理解できていない。


 まあ、これ以上できることは何もない。

 とにかく、このキャラバンに連れられ、安全な後方の街に辿り着けばいいだけだ。


「そういえば……エイティーンさんは、大丈夫なのか?」


「医療ポッドに収納した。傷は負っているが、あの程度であれば明日には動けるようになるだろう。心配をかけて申し訳ないが」


「いやいや、とんでもない! いや、それを聞いて安心した……。本当に、万が一があったらと思うと。改めて、我々を守っていただき感謝する」


 彼は、村長ともども深く頭を下げる。

 対するファイブ・ディセクタは、軽く頷いただけだ。


「我々は、我々の成すべき事をしているだけだ。あの伏蟷螂ヒドゥンプレイヤーが現れたときは、正直、全てを守れるとは思っていなかった。あなた方の協力で、想定より速い段階で追い払うことが出来た」


 淡々と、そう返答する少女。誇るでもなく悔やむでもなく、言葉通りに考えているのだろう。


 防衛担当官と村長は改めて頭を下げた後、椅子に座り直した。

 現在、彼らが乗っているのはキャラバンが保有している、車輪がたくさんついた運搬用ゴーレム、とのことである。簡易と言いつつしっかりとした作りの椅子が多数備えられており、村人全員が座っても余裕があるほど、巨大なゴーレムだった。


 軽食も配られたということもあり、多くの村人が座ったまま目を閉じていた。

 流石に疲労困憊、というところだろう。


「少し暗くなるかもしれないが、夜までには街につく。護衛も我々に任せて欲しい」


◇◇◇◇


 剛腕猿マッソーアームは、群れで暮らす魔物だ。

 普段は縄張りから出てくることはないが、発生したスタンピードの影響で、こんな森の浅い場所まで移動してきてたのである。


 とはいえ、魔物としてはそれほど強い部類ではない。

 いや、決して弱い魔物ではないのだが、いかんせん、異常発達した両腕以外に魔法ファンタジー要素がなく、森のレブレスタの狩人達の間では的扱いされていたりする。


射撃ファイア


 ツー・グラシリス=コスモスがアサルトライフルで銃弾をばら撒く。

 対するマッソーアームは、両腕を盾にツー・グラシリスに向かって走り込み。


一撃ストレイト!」


 真横から、マッソーアームの頭部が撃ち抜かれた。

 開拓村クラヴィーンの狩人だ。


 人形機械コミュニケーターがアサルトライフルで気を引き、横から狩人が撃ち抜く。

 そんな連携を現場で生み出し、彼らは次々とマッソーアームを討ち取っていた。


「助かるぜ、ツーちゃん!」


「いい。次が来る」


 マガジンを交換し、カシャリと装填。アシストスーツの力で、足場の悪い森の中を滑るように移動する。


 そんな光景が、森の中の至る所で繰り広げられていた。


 マッソーアームの群れは脅威ではあるが、<パライゾ>の戦力が村を完全に守ってくれており、狩人達は積極的に打って出ることができている。

 この状況であれば、攻撃力は高くとも防御力に難のあるマッソーアームは、さほど恐ろしい相手ではない。


「これだけなら、守りきれそうだが……」


「隣のラーランから連絡があった。山脈猪マウンテンボアという魔物は知っている?」


「マウンテンボア? あの寝物語のか?」


 マウンテンボアがラーランに向けて移動しており、その影響で多数の蟷螂の魔物に襲われていた。それらは撃退したものの、マウンテンボアは抑えられないため撤退するということだ。


「距離はあるからこちらには来ないはずだが、マウンテンボアの移動に伴い更に魔物が来る可能性がある」


「話に聞く通りなら、小山ほどの大きさがあるということだが……」


 そんな巨大な魔物が暴れていれば、当然、小さな魔物や動物は逃げ出すだろう。


「あと2時間ほどあれば、我々の追加戦力が到着する。それまで粘れるか」


「この調子なら何時間でも問題ないが。遠くと連絡する手段があるのだな」


 狩人達は、<パライゾ>の傭兵少女達と共闘する中で、彼女らの特異な能力について理解し始めていた。

 声も出さずに、少女達は連携している。

 本隊となる多脚戦車ゴーレムとも連携できているようで、唐突にその主砲による援護が行われることもあった。


 さらに、その言動から、他の開拓村、あるいは本国とも連絡を取っていることが分かる。


 しかし、彼女らが命を張って村を守ってくれているのは事実だった。

 時には、狩人よりも前に出て囮を務めてくれる。


 それ故、脅威を感じるよりも頼もしさのほうが勝っていた。


「前方、2体。観測……支援砲撃」


「左に回る」


「了解。3、2、1」


 多脚戦車の主砲が、マッソーアームに撃ち込まれる。

 これは、前線に人形機械コミュニケーターが居ることで可能になっている精密砲撃だ。


 森の中でも砲撃は可能だが、木々に遮られなかなか相手を捉えられない。

 それを、人形機械コミュニケーターのセンサーで測定することで間接照準を行っているのだ。


 2,000m/s以上の速度で飛来した砲弾が、木々を吹き飛ばしつつ、そのままマッソーアームの両碗に直撃した。


 魔法障壁があれば違うのだが。

 マッソーアームは、魔法障壁は持たない魔物だ。


 両腕の硬さや筋力は物理法則に反するのだが、さすがにレールガンの砲弾を弾き返すほどではない。


 両腕のガードは暖簾の如く弾かれ、マッソーアームは弾け飛ぶ。それでも両腕が原型を留めているというのが、この魔物の怖いところだろう。


 2体目は、正面の人形機械コミュニケーターに気を取られ、唐突に弾け飛んだ仲間にぎょっとした顔を向け、そして横から矢に射抜かれた。


 開拓村の狩人達は、基本的に隠密行動を得意としている。

 そのため、ひたすらうるさい<パライゾ>の人員と相性が良かった。


「クリア。次、目標前方300m。数は3、ないし4体」


「任せろ」


◇◇◇◇


 開拓村クラヴィーンの防衛部隊は、<クレイオス>から空挺降下で追加の多脚戦車を受け取り、盤石な守りを構築した。


 空を飛ぶ巨大な船に村人達は度肝を抜かれていたが、多脚戦車と物資を受け取ることで不安も払拭されたらしい。


 結局、その後も大きな問題もなく、剛腕猿マッソーアームの襲撃は終息した。

 隣のラーランのように、村ごと避難が必要になる事態にならなかったのは幸いだった。


 胡蝶ソウルバタフライの飛来は続いているものの、魔物たちの大移動は一段落したようである。


 とはいえ、恐らく魔の森内の魔物、動物の分布は大きく変わっている筈だ。

 これまでのような日常を取り戻すのは、まだまだ先の話になるだろう。

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