第208話 クレイオス
「間に合ってよかったわ……」
最終艤装を行っていたこの巨人艦を、何とか最低限の装備のみ使えるようにして
「高度812m、対地速度496km/h。失速寸前です。速度を上げるか、高度を取るかを推奨します」
「
「
現在、ギガンティアおよびタイタンシリーズ3機も空に上っている。
ただ、積載量が多いため速度を落とせず、地上への影響もあるためあまり高度を低くとれない。
また、主力戦力を他国の領空へ侵入させるというのも憚られた上、そもそもギガンティア部隊はアフラーシア連合王国の空の守りである。
持ち場を離れさせるのは、できればやりたくなかったのだ。
そこで、頑張れば間に合いそうな4番艦を、急いで準備したというわけである。
積載量は最低限とし、艦体重量を減らすことで、比較的低速での飛行も実現している。
もちろん、普通に戦闘機、輸送機部隊を派遣することも出来たのだが。
そこはまあ、趣味とか浪漫の領域であった。
「ホッパー4機を放出。エンジン出力上昇、増速開始しました」
クレイオスに搭載されたU級戦術AI、<ウェデリア・フォー>。通称クレイオス。
クレイオスから送信される戦術データが、モニター表示を次々と更新していく。
「何か懸念は?」
「クレイオスより報告。
「分かんないことだらけね。まあ、仕方ないか。戦術目標は、撃退ないし討伐。対空攻撃能力は無い、と信じたいけど、まずは様子見かしらね。砲弾を撃ち込んで観察するしか無いわ」
「
◇◇◇◇
進行方向の全てを吹き飛ばしながら進む、巨大な魔物。
開拓村ラーランの防衛担当官曰く、これまで目撃情報もなく、語り継がれてきた寝物語に登場するだけの存在らしい。
そうなると、これが本当にマウンテンボアと呼ばれる種であるのかは疑問があるが。
しかし、体長40m、体高25mという大きさの魔物が多く存在するというのも考え難い。というか、想定はしたくない。
よって、この種の魔物は
幸いなことに、マウンテンボアはこの1個体のみが観察されている。
魔の森の奥地にはこの種の魔物がウヨウヨと活動している、ということではないらしい。
しかし、人の住む国にとって、この大きさの魔物はさすがに不要だ。
森の奥に帰ってくれればいいのだが、少なくとも、ワイバーン達が落ち着くまでは不可能だろう。
そうなると、この場で討伐してしまうというのが望ましい。
<ウェデリア・フォー>、クレイオスは、腹面に設置された
発砲。
5,000m/sで発射された砲弾は、4kmという距離を1秒未満で駆け抜ける。
着弾。
着弾の衝撃で、マウンテンボアの巨体が宙を舞った。
まあ、その時点で異常である。
通常の物理法則に従う物体に、マッハ12以上の速度の砲弾が衝突した場合、吹き飛ぶ、という反応にはならない。
良くて貫通、普通は発生した衝撃によって爆散する。
映像解析の結果、マウンテンボアも当然のように魔法障壁を発生させていたことが確認できた。
着弾の衝撃で砲弾は粉砕、運動エネルギーが熱エネルギーに変換されて蒸発した。
そして、分散しきれなかった衝撃が、マウンテンボアを吹き飛ばしたのである。
とはいえ、魔法障壁自体には、既に何度も対抗してきた経験がある。
ミサイル、レールガンなどで障壁を飽和させ、効力を失わせた状態でコイルカノンの砲弾を叩き込む。
クレイオスは各攻撃の着弾時間を計算、即座に実行に移した。
クレイオス本体の垂直発射装置から、ミサイルが次々と発射される。
垂直発射装置は、背面10門、腹面2門が設置されている。なかなか壮観な光景だった。
そして、ミサイルが十分に加速するまでの時間を使い、クレイオスは艦体を傾けた。
背面に設置された2門の
クレイオスは、マウンテンボアを中心とした旋回飛行に入る。
背面には、12門の多砲身レールガンも設置されている。これらの砲撃で魔法障壁を剥ぎ取るのだ。
これまでの解析から、魔法障壁の物理的(?)特性は判明している。
効力を発揮している間は、基本的に全ての物理的衝撃をカットする。推測ではあるが、入力された力を体全体に分散させ、かつ内部にその影響を浸透させない。
自身の体重以下の外力であれば、ほとんど影響がない。
それ以上の力が掛かると、その力の方向に移動する。すなわち、着弾の衝撃で吹き飛ぶ。
そして、一定以上の外力が加わり続けると、唐突に消失する。
消失後は、一定時間が経過すると障壁が復活する。
どのくらいの外力で消えるのか、どのくらいの時間で復活するのかはサンプル数が少なく確定ではないが、基本的に個体によって同じ性能を発揮しているため、体の大きさや、あるいは体内の魔石の大きさによって決まるものであると予想されている。
少なくとも、怪我の有無やコンディション、意識の有無などに左右されるものではないようだ。
12門のレールガンが、一斉にプラズマ炎を吐き出した。同時に、上空から対地ミサイルが殺到する。
対象は、地に足をつけた魔物だ。イレギュラーな移動は発生しない。
全ての攻撃が、計算通りのタイミングで着弾した。
マウンテンボアが吹き飛び、その巨体にコイルカノン砲弾が着弾する。
しかし、撃ち抜けない。
魔法障壁自体は無効化を確認。しかし、砲弾の直撃にも関わらず、その毛皮を貫くことが出来なかった。
単純計算では、前段階で魔法障壁へ与えた仕事量よりも、コイルカノン砲弾1発のほうがよほど高威力なのだが。
クレイオスは戦術データをアップデートしつつ、目標を変更する。
クレイオス単体での撃破は難しい。
であれば、目標の進行方向を変更させる必要がある。
要は、
マウンテンボアは、一連の攻撃で目を回しているらしい。
木々をなぎ倒してひっくり返ったまま、動いていない。
呼吸などの反応はあるため、気絶しているだけのようだ。
この状態でも魔法障壁は機能しているし、そもそもその本体があまりにも頑強なため、追撃してもあまり意味はないだろう。
とはいえ、ひとまず足止めは成った。
この後、意識を取り戻したとして、大人しく元の場所に戻ってくれるだろうか。
あるいは、ギガンティア部隊、または戦闘機部隊に攻撃を要請するという手も考えられる。
しかし、コイルカノンの直撃にも関わらず傷一つ付いていない。果たして有効な攻撃手段はあるだろうか。
魔法障壁を剥ぎ取り、大量の攻撃を叩き込む。皮膚を貫けなくても、衝撃を体内に浸透させることでダメージを与える。
あるいは、テルミット反応を使用して超高温を発生させるサーメート弾頭で炙ってみるか。
とはいえ、燃焼反応はタイムラグがあり、高速で撃ち出すと空力加熱で自己発火してしまうため扱いが難しい。
そもそも、サーメート弾頭など、クレイオスには載せていない。
試すべくは、メーザー砲か。
高出力のマイクロ波を放出することで、照射点を超加熱する事ができる。
とはいえ、以前回収した<レイン・クロイン>の死骸調査では、物理的耐久性に加えて熱耐性も非常に高いことが確認されている。
基本的に、この種の魔物は肉体的強度が非常に高く、物理的破損、変性に対し非常に高い抵抗力を発揮することが判明していた。
即ち、圧力などによる細胞破損が発生しにくく、加熱や化学反応による組織変性も起きないということだ。
幸い、目標は現在沈黙している。
砲弾直撃の衝撃で目を回したということであれば、少なくとも、その程度の衝撃を相手に与えることが出来たということだ。
目を覚ます度に撃ち込むことで、これ以上の南進を諦めさせることは可能かもしれない。
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