第170話 世界地図の話
「光学観測のみですが、ある程度の世界地図を作成できました」
「お、ついにか」
本惑星を立体表示させたものだ。
「ふむん?」
「赤道外周は約67,990km。<ザ・ツリー>の位置はここです。赤道よりも、約350km北側。そして、1,000km北側に北方大陸が存在します」
「その辺は、今までの空撮で知ってるけど。うーん、改めて地球儀形にして見ると、この惑星はおっきいわねぇ……」
そうなのである。
イブが暮らしていた地球だと、赤道外周は40,075km。つまり、およそ1.7倍だ。
脳内で地球のスケールが勝手に展開されるため、1,000kmも離れているにも関わらず、北方大陸が近くに感じてしまう。
「まあ、それはよし。北方大陸ってこんな形だったのね」
衛星軌道上からの空撮を貼り合わせて作られた地図のため、細部に至るまで精細に再現されている。
初めて見る自身の暮らす惑星の映像に、イブは表情を輝かせた。
「まずは、全体の説明から行いましょう」
<リンゴ>が、
「全周撮影が完了し、惑星上に存在する大陸が判明しました。大陸は全部で6つ。現在の拠点である北方大陸。<ザ・ツリー>のはるか南に存在する、南方大陸。他、周囲に4つの大陸が存在します」
地球の地表面は、その71%が海で覆われている。
一方、この惑星は、78%が海面だ。
「しかし、地球と比べるとその表面積はおよそ3倍。陸地面積は2倍強です。現時点では、表面探査の目処すら立っていません」
単純に、投入する衛星数を増やせば、確認可能な面積は増大する。
しかし、安易にそれを選択できない理由もあった。
「結局、いまだに脅威生物の生態は不明。どんな種類がいるかも分からないし、それを調べる手段もない……」
恐れているのは、空を飛ばす衛星基数を増やした時に、どんな反応があるかが分からないことだ。
特に、あの
「ワイバーンは、マイクロ波を感知、放出する機能を有しています。安易に衛星を増やすと、それを察知される可能性が拭えません」
「それに、あのブレスよね。あれ、結局、荷電粒子砲と同じ原理なんでしょう? 上空に向けて撃てば、衛星軌道上にも到達するかもしれない」
「
当然、上空数百kmであれば威力は相応に減衰するだろう。しかし、衛星はそもそも、軽量化のためまともな装甲を有していない。
搭載する電子機器も、外乱には脆弱だ。
そこに荷電粒子の直撃があった場合、容易に機能喪失するだろう。
「まあ、基本方針は、目立たずひっそりと、ね。しばらくは、力を溜めるしか無いわ」
現在観測しうる文明レベルでは、衛星軌道上には手出しできない。
そう判断できるのであれば、どんなに楽なことか。
「それで、当面は北方大陸ってことね。正式名称とかあるの?」
「レプイタリ王国では、単に<
現在、<ザ・ツリー>が交流を持っている文明圏において、一般的な知識として、彼らが住んでいるのが球状の惑星であるらしい、という概念は広まっている。
しかし、それを科学的正確さにおいてしっかりと理解できているとは言い難い。
まあ、一般民衆に対する画一的な教育がそもそも行われていないのだ。さもありなん。
「教育が最も進んでいるのが、レプイタリ王国です。その他国家とは直接接触はまだ行っていませんが、レプイタリ王国より進んだ国家は無いでしょう」
現在、<ザ・ツリー>が勢力下に置いたアフラーシア連合王国。
その東側には、
そして、東側に目を向けると、レブレスタよりさらに東側に、何らかの国家、ないし国家群が存在している。
「空撮のみですが、都市、または都市国家の存在は確認できました。夜間は熱量が低いため、文明レベルはそれほど高くないようです。平地や山間、海岸などに確認でき、盛んに交流も行われているようです」
大陸の南東には、諸島、列島がいくつか存在する。
これらにも、それなりの規模の都市が複数確認されており、活発に経済活動が行われているらしい。
「文明レベルは、こちらも大きく変わりません。映像解析からすると、戦列艦が主流。陸戦力までは確認できていませんが、レプイタリ王国が一歩リードしている、と想定されます」
そういう意味では、これらの国家群もそれほど脅威ではなさそうである。
当面放置しておいても、大きな進歩は無さそうだった。
「そして、北東方面、北壁山脈のふもとから中腹にかけて。こちらにも、国家ないし国家群が存在しているようです」
標高10,000mを超える高さの峰が連なる、北壁山脈。この麓は比較的なだらかに広がっており、そこにも多くの都市が存在している。
しかし、人の住む場所は、開けた所に集中していた。
全く人の営みが感じられないのが、アフラーシア連合王国北部にも存在する<魔の森>だ。これは、北壁山脈の麓の実に8割を覆い尽くしている。
「そして、アフラーシア連合王国の西側にも国家は広がっています。
まずは、
北から、テンベール帝国、カール・レディア帝国、麦の国、ディアラトライン王国、ソルティア商国。
レプイタリ王国側にアイロニア王国。
そして、レプイタリ王国です。
レプイタリ王国の北側にもいくつかの国家があります。
更に西側にも、何らかの国家ないし国家群が存在します。
単に神国勢力と呼ばれているようですが、正確な調査は行っていません」
こちらも、文明レベルはレプイタリ王国未満、らしい。
このあたりの情報が入ってきているため、<ザ・ツリー>は、アフラーシア連合王国での勢力固めに注力できるのだ。
「最後に、北壁山脈の更に北側です。こちらも、南側ほどではありませんが平地が存在し、何らかの国家ないし国家群の存在が確認できました。
いずれも、夜間の熱量が低いため、文明レベルに大きな差異はないと推定されます」
結局、衛星を問題なく運用できているという結果から、脅威となる科学文明は存在しないと判定していた。
ゆっくり地固めを行い、勢力を拡大していく。
これが、<ザ・ツリー>、ひいては<リンゴ>の基本方針である。
「とはいえ、目下の問題は、幾度となくぶつかっている脅威生物です」
人類勢力自体は、<ザ・ツリー>の脅威たり得ない。
しかし、脅威となる生物は存在する。
「北壁山脈には、広い範囲にわたってワイバーン、ないし類似の脅威生物の生息が確認されました」
衛星からの映像のため、解像度には限界がある。
しかし、それでも、ワイバーンほどの大きさの生物が空中を飛んでいれば、さすがに判別可能であった。
「更に、魔の森に限っても、不自然な植生の途切れ、恐らく移動痕が確認されました。明らかに巨大で長大であり、不自然です。このような巨大な生物が存在し、移動しているということは、ほぼ間違いないでしょう」
<リンゴ>が表示したのは、魔の森に引かれた一本の線だ。既に木々に覆われてはいるものの、何かが木々をなぎ倒しながら移動したと思しき痕がはっきりと確認できる。
「今後も、これらの脅威生物が、<ザ・ツリー>が対処すべき最大の脅威です」
「悩ましいわねぇ……」
当面対応すべきは、アフラーシア連合王国の国土内に存在する脅威生物だ。
恐らく、以前にも撃破した
「それと、こちらの魔の森ですが、夜間に多数の生活反応、恐らく焚き火と思われる熱源を確認しています。魔の森に接している国家では、当然のように魔の森の攻略ないし開拓を行っているようです」
国力が死にかけていたアフラーシア連合王国ですら、魔の森へのアタックは行っていたし、何ならそれだけで一都市が完結していた。
この魔の森、経済的には金のなる木なのかもしれない。
「この、魔の森の調査もやりたいわよね。当面は、これに注力してもいいかしらね? この世界の、魔法って力の解析にも役に立ちそうだし」
「
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