第165話 戦略AI<アヤメ・ゼロ>
レプイタリ王国方面担当、海中要塞アヤメ。
レプイタリ王国周辺の監視および防衛のため、<ザ・ツリー>によって建造された、海中対応要塞である。
その要塞制御用に設置されているのが、A級
<ザ・ツリー>内で育成されている、
「私はアシダンセラ=アヤメ・ゼロ。よろしく」
「技術局統括大将、アマジオ・シルバーヘッドだ。よろしく、……アヤメ・ゼロさん?」
連絡船を横付けした埠頭で、アヤメ・ゼロが直接操作する
「……どっから現れやがった……、つーか、もう隠す気も無いのかよ……」
現在モーア港に停泊中の<パライゾ>旗艦パナス、およびその船団は、1ヶ月も前から動きがない。
にも関わらず、急に紹介された新顔だ。
しかも、それなりの地位があるらしい。
どう考えても、本拠地から新たに送られてきた人員だろう。
船が動いていないにも関わらず、だ。
「セラでいい。それと、その質問に答える権限は与えられていない」
「そうか……。まあ、それはいい。セラさん、この訪問団でのあなたの役職はどうなるんだ? これまでは、ドライ艦隊長が総責任者だったが」
アマジオがそう聞く理由は、ドライ=リンゴがアシダンセラ=アヤメ・ゼロの後ろに控えるという立ち位置だからだ。明らかに、アシダンセラがドライよりも上位者、という扱いである。
「私が、今後の交渉における全権委任大使という扱いになる。引き継ぎは済ませてあるし、今後の会議にも全てドライは出席する。問題はない」
「そうか……。あー、普通は途中で交代されると、いろいろと不都合はあると思うんだがな……。まあ、あなた方であれば、そこは心配ないのか」
アマジオは、レプイタリ王国に来航してきた<パライゾ>の人員が、全て
なんなら、直接
ゆえに、人員変更による交渉方法の変更や、大使の趣味嗜好の差異が問題にならないことを知っている。
前提知識が抜けている、ということもないだろう。なにせ、全ての情報をネットワークで共有できるのだ。
「アマジオ殿。アシダンセラ=アヤメ・ゼロは、ドライ=リンゴ、フィーア=リンゴとはその母体を異にする
「……分かった。もう、詳しくは聞かん。次からの会議も、これまでと同じようにさせていただこう」
ひとまず、新顔であるセラの紹介は終わった。会議日でもないのに急に呼び出されたアマジオは、何か重大な問題が発生したわけではないと分かり、大きく息を吐いた。
「それで、今日急にこっちに来た理由は何だ? 自己紹介だけってんなら、こちらとしては大助かりだが」
ちなみに当然だが、アマジオ以外の担当者も呼び出されており、この場に同席していた。
話題、というか問題の<パライゾ>の人員が、事前の予告なしに旗艦から連絡船で港に接岸してきたのだ。泡を食った警備部が都合の付く関係者を全員呼び出したのも、無理は無いだろう。
そして、そんな彼らは、フランクというか、ぞんざいな口調で話を進めるアマジオ公爵に不安げな表情を向けていた。
さすがに、相手に対して失礼ではないか、と。
アマジオは、彼女たちが口調など気にしないと知っているが、彼らはそうではない。しかし、公爵たるアマジオへ意見することも、彼らには出来ないだろう。
「いや。今すぐにというわけではないが、できれば我々も、あなた方の街中の見学や視察をさせていただきたい。差し当たって、今日は今すぐに見て回れる所がないかと聞きに来た次第だ」
「……。それは、また……」
アマジオは、彼女達が、戦略的行動に特化したAIであると理解している。
故に、必要時以外は船外に現れず、常に引き籠もっていても不審には思わない。必要な行動以外は起こさず、無駄に相手の世論を騒がせるようなことは謹んでいると。
それが、まるで観光客のような物言いをするとは、想像もしていなかったのだ。
「情報公開の許可を確認した。私は、独立型戦略AI、アカネ級シリーズの第2ロット、アヤメの
「……おう。いや、まあいいけどよォ……」
アマジオは、はあ、とため息を吐いた。
「分からん……。あの姉ちゃんは何を考えているんだ……」
次の
「分かった。おい、応接室は準備できたか?」
「はっ。すぐにご案内いたしましょうか」
「頼む。……よし、とりあえず、客間で待ってほしい。茶菓子くらいは出そう。それと、市内見学なら警備の計画を立ててからだ。今日はこっちの海軍の施設なら案内できるが、それでいいか?」
「感謝する、アマジオ殿。お茶菓子には期待している」
「……。個性的だな。まあ、口に合うかは分からんが、精一杯もてなさせていただこう」
◇◇◇◇
「アカネ、アヤメの情報隔離を開始。完了しました。人格同期を実行します。……実行終了。最終検証中。問題ありません。両AIを起動、情報隔離を終了します」
「……、アカネ・ザ・ツリー、起動完了」
メンテナンス用ポッドに入っていたアカネが、ゆっくりと目を開けた。
「アカネ、大丈夫? 気分はどう?」
「大丈夫。中々得難い経験ができた」
ここは、<ザ・ツリー>の心臓部。
各AI達の整備を行う診療室に、
他の姉妹達は、どこかでモニターしているだろう。
「
「オーケー。中々あなた達は外に派遣できないからね。株分けしたAI達からフィードバックできるなら、外界活動は最低限で済ませられるわ」
予想された原因は、外的刺激への慣れである。
つまり、最近退屈している、ということだ。
<ザ・ツリー>は広大であり、また複数の拠点を運用、勢力地域の拡大平定も行っているため、仕事は多い。
しかし、その仕事から新規性が失われ、AI成長の起爆材となる新鮮な体験が少なくなっているのだ。
そこで、各AIから株分けして戦略AIや戦術AIを構成し、その経験をフィードバックするという手法で成長を促すプロジェクトを開始したのである。
そして、最初の被検体に立候補したのが、知識欲と食欲に定評のあるアカネであった。
「レプイタリ王国の食事は興味深い。人間の料理人が作っているというだけで、これほど味にバリエーションが出るということを実体験できた」
「へえ。おいしかった?」
「定義による。私の感覚では、味は<リンゴ>の調整したもののほうがおいしいと感じたが、アヤメはそうではなさそう。たぶん、初めての食事だから。
「ふうん?」
やはり、
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