第5章 アフラーシア連合王国
第141話 What's yours is mine.
今日も、フラタラ都市郊外に造られた飛行場に、大型貨物機が着陸する。
貨物機は日夜を問わず、フラタラ都市郊外拠点へ物資を搬入し続けていた。
「できれば大型の貨物列車を運用したいですが、時期尚早ですね」
「トラックで運ぶには遠すぎるしねぇ。効率は悪いけど、航空機しか無いかぁ」
この貨物機は、マイクロ波給電による飛行が可能な、電動プロペラ駆動の大型機である。
その最大離陸重量は、300tを超える。
また、燃料を積む必要がないため、積載量は見た目よりも遥かに多い。
それでも、地上を走る鉄道やトラックと比べると、どうしても見劣りしてしまうのだが。
「マイクロ波給電範囲以外は飛行できませんし、そもそもが鈍重な機体です。制空権が確保された空域でしか運用できませんね」
「さすがにこれを前線に持っていくのは無理でしょ。的じゃん」
ちょうど
満載時の離陸滑走距離はおよそ2,000m。プロペラ機ということを考えると、かなりの長距離だ。
最高速度も500km/h程度であり、運動性能も良くない。
「所謂、戦時量産機ですので、コストは非常に低いですが」
「まぁねぇ」
この大型貨物機も、運用可能回数は5回から10回程度。整備は行わず、怪しくなったらスクラップに回すという実に勿体ない使い方の機体である。
とはいえ、前線基地の突貫構築用に緊急投入したものなので、そんなものだ。
長期運用の機体は、現在オリーブが設計中である。
そして、<リンゴ>は更に、別の機体を設計中である。
「3日後には、フラタラ都市郊外の前線基地が戦力化可能です。周辺の平定が完了後、
「周辺というと…。フラタラ都市、グレートホースタウン、あとは
「
◇◇◇◇
アフラーシア連合王国は、国土の大半が荒野である。
そのため、居住地はオアシスのような水場を中心としており、都市の数は少ない。北から順に、以下のような都市が存在している。
最北端、ノースエンドシティ。
アフラーシア王都。
遊戯騎士領村。
小麦の丘都市。
東門都市。
フラタラ都市。
西門都市。
グレートホースタウン。
そして、<パライゾ>が秘密裏に接収した、鉄の町およびテレク港街。
その他、小さな村落が点在していたが、ここ数年でその数を急激に減らしていた。
幸い、
豊富な水を湛えた湖の近くに都市があるということもあり、蛋白源も確保できている。
それぞれの都市は半独立という体ではあるが、アフラーシア連合王国は何とか、その体裁を整えていた。
とはいえ、国としてのまとまりは完全に失っていたが。
<ザ・ツリー>勢力は、慎重にそのテリトリーを広げている。
上空に高高度ドローンを飛ばし、エネルギー供給網を押し上げつつ、同時にスパイボットを走らせる。
現在は、
「フラタラ都市の拠点、ここを第3要塞とする予定ですが、こちらへの戦力・物資の移送を、現時点をもって完了とします」
予定していた最後の物資を積んだ大型貨物機が、滑走路に着陸した。
今後の輸送計画もまだまだあるが、この時より、アフラーシア連合王国侵攻作戦が開始される。
「
「来たわねぇ」
第2要塞、およびフラタラ都市拠点には、出撃準備を整えた大型兵器が、ずらりと整列している。
今回の第1次侵攻作戦は、アフラーシア連合王国南部地方の完全制圧を目的としていた。
対象となる都市は2つ。
グレートホースタウン、西門都市。
そして、もう1つ、重要な作戦目標がある。
アフラーシア連合王国の西側、麦の国およびその他小国家群からの領土奪還である。
「では、みんな! ただいまより、<
「
「「「「「「
ちなみに、
「第2要塞、制空戦闘機の離陸を開始します」
「フラタラ都市拠点、制空ドローンの離陸を開始」
「同じく、制圧機の移動を開始」
「高高度給電プラットフォーム、異常無し。移動機に対する給電、
「超音速高高度偵察機
この時のために準備した<ザ・ツリー>謹製の各種侵略用兵器が、一斉に動き始めた。
フラタラ都市からおよそ100kmの距離にある
湖を挟んだ反対側にあるグレートホースタウンには、第2要塞から飛び立った空挺部隊が割り当てられている。
この2つの作戦群は、今からおよそ2時間後、ほぼ同時刻に制圧戦を開始する予定だ。
この際、最も気をつけなければならないのが、麦の国やその他の国家への情報流出である。
国境線の確定のため、2都市の制圧完了後、更に戦力を差し向ける必要がある。
現時点では国境制圧用の戦力が揃っていないため、相手国に無駄に警戒させたくないのだ。
「作戦区域の空撮を開始。西門都市の交易路に、多数の商隊を確認」
「目標をマーク。空挺は視認される危険があるため、地上機により拘束を行います。移動経路を設定中」
そのため、制圧作戦が視認される可能性のある商隊は、全てを拘束する予定だ。
国境線への戦力派遣が完了するまでの数週間だけ、情報を封鎖できれば問題ない。
「制圧対象範囲内に、複数の不明勢力を確認」
「映像判定中。結果、出ました。燃石の採掘集団と推定。簡易的な拠点も確認できます」
「空挺による制圧を提案。判定。情報流出の可能性、1%未満。16番空挺隊を設定します」
作戦マップが、次々に更新されていく。
そして、事前に配置された、隠蔽型の固定情報収集器からの情報。これは、当初は地中に埋没しており、作戦開始と同時に地上に露出させたものである。
「出だしは順調ね」
「
スパイボットからの事前情報でも、障害となる戦力は確認されていません。
アフラーシア王都方面であればまだしも、南方都市では脅威となる集団ないし個人が存在する可能性は、ほぼありません」
特に、フラタラ都市以南は、王都から見れば辺境の土地であり、重要視はされていない。
一応、東門都市、西門都市は交易拠点として栄えてはいたものの、アフラーシア連合王国側の資源の乏しさから、国内への影響力は限定的だった。
あるいは、アフラーシア連合王国の内乱さえ無ければ、この2都市が連合王国内の2大都市となっていた可能性もあったのだろうが。
王都から見れば、食料生産拠点である小麦の丘都市までが主要都市であり、以南は開拓街扱いなのだろう。
故に、<ザ・ツリー>は悠々と、南方の都市を制圧できるのだ。
「グレートホースタウンへの空挺降下は、114分後に開始されます。同時に、展開した地上機群が
「6時間でできちゃうのよねぇ…」
多脚戦車により、街を完全包囲。そこから、多脚戦車および地上歩兵によって侵攻し、武装勢力を無力化していく。
また、多脚地上母機を使用し、対人ドローンも多数投入される。
航空戦力は、基本的には地上攻撃には参加しない。爆撃や射撃は威力が高すぎるため、被害が無駄に拡大すると考えられるからだ。
万が一に備え、貨物機の護衛のために空中待機のみを行う。
また、相手側の航空機に対する理解が皆無のため、威圧効果が限定的であるという分析結果が出たというのもある。
多脚戦車による圧倒的な蹂躙が、最も効果的なのだ。
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