第134話 空に手を掛ける
「レプイタリ王国側の協議メンバーが変更になるようです」
「ん?」
男爵水没事件の翌日。
早速、レプイタリ王国からの接触があった。
「本日の会議は中止。明日以降再開とさせてほしいとのこと。また、海軍トップが直接動くようで、交渉は早期に決着する可能性がありますね」
「ほぇー。トップ会談ってことになるのかしらねぇ」
「
<リンゴ>も特に説明する意義は見いだせなかったので、まあいいか、と適当に流した。
「しかしあれね。あの
「
色々と交渉を続けるに当たり、国家としての体制を設定する必要が出てきたのだ。
とはいえ、その内容に
「まあ、いいんじゃない? 今の所、初期型は…60体?」
「
<パライゾ>国内への招待については認めることはないだろうし、特に問題ないだろう。
今後の活動においても、数年あればアフラーシア連合王国内に盤石の体制を築くことができる。
ここに、防衛艦隊、派遣艦隊を合わせれば、立派な海洋国家の出来上がりだ。
もちろん陸上戦力も増産するため、対外的に国としてやっていくことは十分に可能である。
「いい感じね。
「
鉄の町を完全な傘下に収め、周辺の鉱脈の採掘も始まった。
石油および天然ガス田を手に入れたことで、還元剤となる水素および炭素の確保も十分である。
水素は海水からの生産も可能だが、設備的にはメタンガスを原料としたほうが楽なのだ。それに、同時に大量の炭素も手に入る。
どちらの元素も優秀な還元剤だ。鉄だけでなく、その他の元素の抽出にも利用できる。
各地の鉱脈開発も順調で、大量の資源を確保する目処もたった。
試算では、数カ月後には実用的な元素集積装置の建造も可能となる。これがあれば、更に有用な元素の確保が容易になるのだ。
「何の制約もなく開発できるっていいわね。海はまだちょっと怖いけど」
海上では、海水を処理して
ただ、海はまだ未探査の部分が多く、防衛のため多くの戦力を割いていた。
大型の脅威生物がいつ襲ってくるかもわからないため、一定の防衛力が常駐するよう調整している。
そのため、現時点では海の開発は進捗が悪かった。海底鉱脈周辺も、念入りに調査を進めている最中である。プラットフォーム稼働後に怪獣が襲来して全て瓦礫になりました、では大損だからだ。
魚型のボットを放流して監視網を作成したり、深海対応攻撃機を製造したりと、大忙しである。
「アフラーシア連合王国内の鉱脈開発は順調です。ここに海底鉱脈の資源が加われば、生産性は格段に上昇します」
全ての計画が順調に行けば、という但し書きは付くものの、生産量、戦力の予想グラフは右肩上がりだ。転移直後の、グラフが地を這っていた頃とは雲泥の差である。
「これなら、例のアレも作れそうね」
「
「うむ!」
資源生産量の推移予想を見ながら、
「浪漫兵器ではあるけど、ちゃんと効果もあるからね。今の所、空には脅威は無いみたいだし、十分役に立つと思うのよねぇ」
「
空中プラットフォーム。
文字通り、空に浮く巨大設備の総称だ。
その飛行手段は、空力利用から空間固定技術、反重力装置、ロトベーターなど様々あるが、どれも共通して空中空母、あるいは空中要塞と呼ぶべき巨体というのが特徴である。
「かっこよさで選ぶと、空力飛行よねぇ。こんなのが空を飛んでるとか、興奮が止まらないわ」
推進方式はジェットエンジンベースで、速度によって浮力を稼いでいる。
「
そうなると、この構造物を建造する設備、構造試験機、発着用滑走路など様々な付随施設も準備が必要になってくる。
「想定する試算収支であれば、十分に運用可能です。制圧範囲が広がることを考慮すると、黒字と考えて差し支えありません」
即座にシミュレーションを行い、<リンゴ>はそう結論付けた。
とはいえ、大気圏内の調査も結局、北大陸の一部でしか行われていない。
航空戦力は確認されていないが、居ないと結論付けられるほど、この世界は甘くないのだ。
何をもって有り得ないのかはよく分からなかったが、確かに、
警戒しすぎて損をする、ということも無いだろう。
「大型の構造物であれば、エネルギー炉を内蔵できますので、行動範囲が広がります。今後の勢力拡大においても、プラットフォームを試しておくというのは重要でしょう」
「オッケー。じゃ、そっちも着手しましょう。いろいろとプロジェクトが増えてきたわね!」
そんな訳で。
面倒な外乱要素であったレプイタリ王国を押さえつけ、<ザ・ツリー>はアフラーシア連合王国内での戦力増強を着実に実行していた。
<リンゴ>の予想によると、レプイタリ王国との条約が成立し、交易が開始されるのはおおよそ3ヶ月後。
それまでの間に、<ザ・ツリー>側では更に艦艇の建造が進み、パナス級原子力巡洋艦を2隻、ヘッジホッグ級駆逐艦22隻が就航する予定だ。
設備防衛に回す分もあるが、大型の輸送船と護衛船団による大量貿易も可能になるだろう。
ちなみに、護衛なしでの輸送船運用はさすがに危険ということで、最低でもパナス級1隻、ヘッジホッグ級6隻を随伴させることになっていた。
◇◇◇◇
「作った、とは聞いてたけど、本当に作ってやがったのか…」
王宮前の広場で、その銅像を見上げながら、男はぼやいた。
現在のレプイタリ王国を作り上げた、英雄達の銅像だ。
市民達の憩いの場所として解放されている広場に、彼らの偉業を称えるため、建造された一連の銅像群。
その内の1体の前で、男はため息を吐いた。
「思ったよりは似てねえからいいがよぉ…。ん、こっちはアルバンの野郎か。ああ、そういや若い頃はこんな感じだったか…。うん、アイツも総提督か、ウケるわ」
その海軍総提督に直々に呼び出された男は、指定された日時まで日を持て余していたため、こうやって首都モーアの観光、と洒落込んでいるのであった。
「しかしまあ…。たかだか20年くらいだと思うが、よくここまで発展したもんだ。最後に来たときはまだ軌道馬車とかだったもんなあ」
首都に入り、ここモーアでは蒸気機関を利用した軌道機関車が普及していたことに、男は一番驚いたのだ。
まだまだ技術的には拙く、むき出しになったピストンが勢いよく上下する様は、逆に感動を覚えたが。
「俺が知ってるのは軍艦の奴だけだからなぁ…。あんなに小型化できて、一般にも普及し出したのか。やっぱ、天才ってのは居るもんだねぇ…」
どこか遠くで、ピィーッ、と蒸気の抜ける音が聞こえた。
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