第128話 知らない所で今後の処遇が決まる話
なぜ<リンゴ>に魔法の影響があったのか、そしてなぜ術者と思しき男は意識を失ったのか。
そして、最初に対象になったと考えられる
人形機械の
とにかく、何らかの魔法、または魔法のような何かが使用され、<リンゴ>に影響が及んだ。その事実だけは確かである。
そして、術者は不明ではあるものの、最も怪しいのは突然倒れた
そもそも経歴からして怪しいのだ。
それは、会場警備を行っていた海軍兵にも通達されていたらしく、意識を失った男は介抱されるのではなく拘束されて退場させられた。
「あの
スパイボット網に記録されていた
スパイボット網内には、大量のデータが蓄積されている。
だが、基本的に電波通信が主であり、ミリ秒単位で発生している監視データを全て拠点に送るのは現実的ではない。そのため、中継ハブには、利用されなかったデータが大量に溜め込まれている。
通常はデータ検索パラメーターを流してハブ内でヒット率の高いデータ群のみを選択、ダウンロードして詳細解析を行うという手段を取るのだが、今回は直近10日間の全データを解析することになった。
大容量のデータ通信を行うため、中継専用のドローン複数台を新規に製造、
中間蓄積用の
これは、通信経路を介して<リンゴ>に魔法的影響が及んだことを警戒した対応である。物理的に通信経路を遮断し、
「手間が掛かるけど、仕方ないわよねぇ」
「
いろいろと電波事情に制約の合ったゲーム時代と異なり、この世界では、電波の全領域が無制限に使用できる。通信ドローンをリレーさせながらメッシュ状に配置すれば、地上では通信し放題になるだろう。
まあ、さすがにそこまでやると上空の異変に気付かれる恐れがあるため、採用はしていないのだが。
こうして手に入れた大量のデータを、<リンゴ>はアサヒに意見を求めつつ、解析していった。
データを集めるボットが非常に多いためデータ量だけはあるのだが、個々のデータの質を見ると少々荒い。いわゆる、解像度が低いという状態だ。
それでも、同じ標的を多角的に観察しているため、全体で見れば充分な解像度が確保できるだろう。問題は、それを得るために複数の時系列データを合成する必要があるということだ。
<リンゴ>は、
「で、何か掴めたのね」
「
解析の結果、外見特徴の一致する人物を同定することが出来た。
その結果を基軸に複数のデータを繋げると、ターゲットの詳細な行動をトレースできる。
「首都モーアに来た後、宿にチェックインし、しばらく観光名所やカフェなどを巡り、その日の夜にとある酒場に入りました。そこで、偶然居合わせた男と意気投合し、しばらく飲み交わしています」
その後は普通に宿に帰って就寝。
次の日はまた観光客のような行動を続け、一日を終わる。
「…怪しいわねぇ」
「
当然、艦隊を直接目視しに来るような人物は全てチェックされている。
しかし、この前後の行動が観光客と大差なければ、アラートなども発生しない。
「4日目、今度は大きな商店に入り、品物を物色するような動きを見せます。そして店員を捕まえ、そのまま商談室に入って商談を始めました。この商店は、問題の
ターゲットはそのまま宿まで帰り、この日は終了。
次の日、今度は別の商店に入り。
「ここで、ターゲットの姿を見失いました。恐らく、店内で変装などを行い、秘密裏の裏口などから脱出したものと考えられます。細かい路地や隙間などまではスパイボットも侵入していませんので、姿を変えられると捉えきれません」
「まあ、それは仕方ないわね。ボット数的にも、情報量的にも限界はあるもの」
しかしその数時間後、今度は別の商会、主に高級レストランやパーティー会場などを取り仕切る店に、
「店の記録もスパイボットに洗わせましたが、記録上は1ヶ月前から働いている、他の街から異動してきた、ということになっていました。疑ってから調べなければ、分からない偽装です」
「なるほどねぇ…」
こうなると、人の出入りを一意タグ付きで完全に把握しないと無理だろう。
現在侵入させているスパイボットでは、瞬時に人物を同定できるほどのセンサーは持っていない。複数のデータを合成し、初めて使い物になるのだ。
そして、その判定を視界内の全ての人物たちに対して瞬時に行うとなると、必要な情報資源は膨大なものになる。
「専用の監視装置であれば可能ですが、現在のスパイボットの性能では不可能ですね」
「そりゃあねぇ…。完全監視下に置きたいわけじゃないし、そこは諦めるしか無いわね。究極的には、<パライゾ>に対する悪意のみを検出できればいいんだし」
「
そして、
「ここまでの行動、それ自体は問題ありません。ごく一般的な成人男性が可能な能力の範囲内に留まっています」
ですが、と<リンゴ>は続ける。
「ターゲットと相対した人物たちの表情、言動、行動が予測と一致しません。予測パラメーターを様々に変更させましたが、データに恣意的な操作が行われていると疑わざるを得ないほどに結果が偏っていました」
そしてそれこそが、このターゲットの能力だろうというのが、<リンゴ>とアサヒの出した結論だった。
「このターゲットは、相対した相手に対し、何らかの手段で自身に好感を抱かせるといった能力を持っていると判断します。アサヒは魅了の力、と呼んでいましたが」
「魅了…。そんなに効果的なのかしら?」
「
そして、その力があればどんな現場にも無理なく侵入できるのだ。
今回も、予定になかった
本来、レプイタリ王国海軍側の調査員も、ターゲットをもっと警戒すべきであったのだ。
実際、ターゲットを直接視認していない担当者や高官達は、警戒や調査の指示を充分過ぎる程に出していた。
しかし、現場で指示を遂行する担当者の行動が、それに伴っていなかった。
「どんな思惑を持って、あるいはどんな命令をされて、このターゲットが<パライゾ>に近付こうとしてきたのかは不明です。曲がりなりにも法治国家であるレプイタリ王国で、少なくとも見た目には何もしていない、しかも何の被害も発生していないにもかかわらず、ターゲットを長期間拘束は出来ないでしょう」
無理に拘束期間を伸ばした場合、それこそ外野がうるさく騒ぎ立てることになるだろう。
それは、<リンゴ>としても望む展開ではない。
「尋問では正確な情報は入手できません。泳がせるか、あるいは誘拐するか」
「物騒ねぇ。脅威になると思う?」
「
「んー…。都市外に逃亡したら、捕まえるか…?」
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