第47話 死闘の決着
「……! <リンゴ>、突撃しなさい!」
「
好機。統括AIとしては受け入れ難い作戦でも、
包囲を突破しようと我武者羅に暴れるレイン・クロインの横腹に、増速した
ぶつかった瞬間、やはり防御膜によりその衝撃から保護されるが、
「全力よ!」
「
突撃の力は弱めない。船首が圧力に負け圧潰する。鋼鉄がひしゃげ、構造材が砕け散る。
それでも加速をやめず、レイン・クロインに船体を押し込んでいく。
「防御膜消失。……復活しません」
「いいわ、撃て撃て!」
ケベックの圧力に負け、防御膜が消失。
レイン・クロインはケベックの
しかし、1分あれば十分だった。
合計で250発を超えるAPDS砲弾が、レイン・クロインの身体に撃ち込まれた。夥しい量の血液が、周辺海域を赤く染めている。レイン・クロインは、もうほとんど力が残っていないようだった。体の各部が弱々しく動いているが、それも反射的な律動に過ぎないだろう。
「……何とか、勝ったか」
「ありがとうございます、
<ザ・ツリー>の被害は、大量消費した砲弾と魚雷。そして、体当たりに使ったケベック1隻。上部構造物はほぼ破壊され、船体の3分の1は押し潰されて無くなっている。
神経質なまでに細かく分断された水密区画のおかげで沈んでは居ないが、大破と言って差し支えない。
主機とスクリューが無事のため、これでも自力航行は可能というのは驚愕だが。
「費用対効果は悪かったかも。あのまま砲撃を続けても、倒せたかしら……?」
「……
「……そう、そうね。オーケー、そういうことにしておきましょう」
彼女は大きくため息を吐き、司令官席の豪華な椅子に沈み込んだ。やれやれ、である。
「あー……。流石に疲れたわ。こっちに来てから、一番頭を使ったわね」
「お疲れさまでした。後の対応は私の方でやっておきますので、お休みになられては?」
「そうしようかしら……。じゃあ、報告はまた後でね」
それでは、と、退室する
「食事はどうしましょうか?」
「んー……。肉……?」
テレク港街との貿易のおかげで、新鮮な肉も手に入るようになった。生で購入し、瞬間冷凍することで7姉妹が食べるには十分な量の肉類も確保できている。それはそれとして、そろそろ牧畜にも手を出す計画はしているのだが。後は、大型設備がある程度揃ってきたため、鯨のような大型海獣にも手を出してみようとしている。
「肉料理ですね。分かりました」
そういえば、
さて、今回の事件の主役、レイン・クロインである。
テレク港街の
海の怪物、という噂で最もそれらしいのは、
実際には、逃げ出して生き延びた乗組員も居たということだ。
レイン・クロインの遊泳速度はかなり早いし、何かしら
おおよそ、下から突然襲ってくることと、一噛みで船が喰われるということ、船団の場合は全ての船が狙われるということ、大砲が跳ね返されるということで、レイン・クロインと見て間違いないだろう。
問題は、レイン・クロインが
目撃証言は、ほぼない。襲われたら全滅するのだから、それは仕方がない。
レイン・クロインに襲われたのか、他の原因で壊滅したのかは分からないため、実際どの程度の被害が発生していたのか、全く不明だ。
結局、あのクラスの怪物がわらわら居るなら大型帆船など流行らないだろう、と<リンゴ>は結論づけた。居たとしても広い海に数匹程度ではないか、と。
確かに、1回の狩りで10頭以上の海獣の群れが全滅しているのだ。レイン・クロインが何十匹も居たら、早々に絶滅しかねない。
現在、あの巨体を<ザ・ツリー>に向けて曳航中だ。あまりにも大きすぎて、
通常のワニの体長・体重の比率から演算すると、1,500トンを超えるのではないかとのことだ。もうすぐ18番艦がロールアウトするため、そちらも調査に回す必要がある。また、現在テレク港街から<パライゾ2>も戻ってきている最中のため、これも利用予定だ。
今回、周辺海域の安全確保に問題があると判明した。
いや、まあさすがに、あのクラスの脅威を予想しておけ、というのは無理なのだが。
しかし、徹甲弾を真正面から弾き返すような巨大生物が、これから現れないという保証はない。今回は何とか対応できたが、レイン・クロインがもし2匹だったら、正直守りきれたかどうか怪しいだろう。早急に、<ザ・ツリー>の即応戦力を増強する必要がある。
あとは、1頭喰われずに置いておかれた海獣の調査も行わなければならない。<ザ・ツリー>からの攻撃を受けた後、明らかにそれを守るような動きを見せていたのだ。
単なる非常食ならそれでいいのだが、野生動物が守る行動を取るといえば。
「子供、ね」
「
なるほど、と彼女はうなずいた。あのレイン・クロインが、海獣の死体に卵でも産み付けている可能性があるということだ。
「……繁殖、するのかしら。アレが」
「不明です。しかし、分析した体組織の構成から予想すると、通常の動物と大きく異なるものは発見できませんでしたので、生態は既存の生物の枠に収まる可能性は高いかと」
この世界の
「少なくとも、体組織は科学的には何ら問題は確認されていません。大きささえ無視すれば、まあワニの1種だと考えて差し支えないかと。であれば、
「なるほどねえ……。まあ、何でもかんでも魔法に頼ってるびっくり生物なら、体組織にも異常が観察されるはず、か。そうねぇ……」
結果待ちね、と彼女は締めくくる。何にせよ、実物を調査すれば分かることだ。
「もし幼体でも手に入れば、いろいろと捗るわねぇ」
そういうことだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます