第46話 科学 VS ファンタジー
レイン・クロインを狙える砲は、全部で13基。それらが、ほとんど間を置かずに発砲。発射された砲弾が、レイン・クロインに殺到する。
「着弾確認」
発射間隔を制御し、13発の砲弾を同時着弾させたのは流石の絶技。浅い角度で殺到した砲弾が、水面下のレイン・クロインの巨体に突き刺さる。
数十mの高さまで上がった水飛沫の中、レイン・クロインの巨体も宙を舞った。
「ダメージ、確認できません」
着弾時の映像。異なる場所に、同時に徹甲弾が突き刺さる。しかし、1発目と同じく光の膜と波紋が発生、全ての砲弾を防ぎきった。あまつさえ何発かは入り方が浅かったのか、表面を滑って明後日の方向に弾かれてすらいた。
「……」
「……無限に防げる、とは考えたくはないけど、撃ち続けていたらあの膜も無くなるかしら」
その可能性はあるだろう。対艦砲弾を無限に防げるほどの強度があるとすると手の打ちようが無いため、やや希望的観測ではあるが。
「徹甲弾よりも貫通力のある砲弾。
「
「そうね。あとは、対艦ミサイル。突入速度はマッハ3。でも、さすがに水中に居る状態じゃ当てられないわね」
映像内のレイン・クロインが、のたうち回って大口を開けた。口の前方に水飛沫が上がる。
「咆哮しています。これは……威嚇でしょうか」
「怒ったのかな」
そこに、第3射が命中した。命中箇所をうまく計算したのだろう。レイン・クロインの巨体が跳ね上がり、ひっくり返って背中から着水する。
「着弾部位による有意な変化はありません。どの場所に当たっても、防御膜のような光と波紋が発生しています」
「防御膜……ね……」
レイン・クロインはぐるりと体を回し、一気に潜航する。第4射は膨大な海水に阻まれ、ほとんど有効打とならなかった。そしてその巨体は、そのまま一気に加速する。
「レイン・クロイン、移動開始。こちらに近付いてきます」
「げっ、バレたか」
さすがに何度も撃たれれば、どこから攻撃を受けたのかは分かるらしい。潜航したまま、<ザ・ツリー>に向けて泳ぎ始める。
「レイン・クロイン、加速中。時速10、15、20、25、あと5分で絶対防衛圏に到達と予想」
「まずいわね。
「3隻が展開完了しています」
「魚雷は?」
「1隻のみ配備」
「撃って」
「
予想していたわけではないのだが、装填しているのはスーパーキャビテーションを利用する高速魚雷だ。最大速度は時速800kmを超えるが、さすがにそこまで加速する時間はないだろう。とはいえ、水中の敵に対して対抗できる、唯一の兵器だ。
「発射」
水面に向けた魚雷発射管から、ロケット炎を噴き出しながら高速魚雷が3基、連続で射出される。水面に飛び込んだ魚雷は、加速しながらレイン・クロインへ向けて突き進む。
「レイン・クロイン、時速50kmに到達。水深50m、絶対防衛圏まで残り3km」
「……効いてよ」
魚雷は時速300kmに到達、更に加速中。最高速には及ばないものの、十分な速度だろう。
「命中まで5秒、3、2、1、今」
1発目が、レイン・クロインに直撃する。弾頭に仕込まれた成形炸薬が最初にメタルジェットを噴出し、直後に突入した通常弾頭が爆発した。2発目、3発目は爆発タイミングを合わせ、レイン・クロインの直下で起爆。発生したバブルパルスが、レイン・クロインの巨体を大きく揺らす。
「おお……」
巨大な水柱が上がり、レイン・クロインの体が水面から飛び出した。
「着弾」
更に、水面に現れたレイン・クロインの体に、次々と徹甲弾が命中する。<リンゴ>が制御する150mm滑腔砲だ。要塞砲および
「ダメージ、確認」
「おお!」
映像解析。魚雷による加害は確認できなかったが、次々と着弾する砲弾により波紋を広げる防御膜が、10発目で消失。11発目がその鱗を削り取った。12発目、13発目は角度が悪く、鱗表面を滑って弾かれる。続く砲弾も、鱗を削ったり滑ったりと有効打にはならないものの、謎の防御膜を突破したのは確実だ。
「連続攻撃が有効と判断します」
「全力射撃!」
「
21門の150mm滑腔砲が、毎分45発の速射を開始。毎秒15発を超える徹甲弾が、レイン・クロインの巨体に集中した。そしてその様子は、望遠映像で克明に観察されている。
「直撃弾多数。しかし、体組織の強度が高く致命傷は与えられていないようです。また、防御膜は数秒に1度復活しているようですね」
滅多打ちにされるレイン・クロイン。ほとんど空中コンボだが、しかし徹甲弾ではその皮膚を突破できないようだった。レイン・クロインはのけぞり、身体をくねらす。丸みを帯びた体型のため、砲弾が滑るのも問題だ。
「硬いわね……!」
「
埒が明かない、と判断。
その一瞬の砲撃密度低下を突かれ、レイン・クロインは海中へ滑り込んだ。
「あ、まずっ」
そのまま逃げればいいものを、レイン・クロインは一気に潜ると
「オスカー、増速します」
ガスタービン発動機が唸りを上げ、大電力を作り出す。供給された電力を飲み込みながら、インモータースクリューが海水を蹴り上げた。
「お、おお……」
間一髪だ。舳先が海中から飛び上がる勢いで加速したオスカーの船尾を掠め、レイン・クロインが大口を開けて飛び出した。そこにこれ幸いと要塞の砲弾が叩き込まれ、防御膜を剥ぎ取ると同時、至近のオスカーの船尾砲から、APDS砲弾が叩き込まれる。
砲口から射出された砲弾が、空中で4分割する。砲塔内加速用の装弾筒が脱落し、十分に加速された槍状の弾体が、レイン・クロインの体表面に突き刺さった。突入速度は、2,000m/s。さすがにこの速度でぶつかる物体への耐性は無かったようだった。
「弾体がレイン・クロインの体表を穿孔」
「よっしゃ!」
「2発目は防御膜に弾かれました」
「なんでや!」
戦いが始まり何百発の砲弾を直撃させ、ようやく1発が有効打となった。砲弾がどこまで入り込めたのかは分からないが、体表に穴が空き血が流れ出しているのが確認できる。とはいえ、その防御力が失われたわけではない。防御膜を剥ぎ取った上で、APDSを至近から叩き込む必要があるのだ。
「次も狙えるわね?」
「
しかし、シビアなタイミングを要求される攻略法も、<リンゴ>に掛かればただの作業となる。即座に砲撃間隔が変更され、要塞砲による防御膜無効化の直後に
レイン・クロインの身体に、8発のAPDS砲弾が、正確無比にそして無慈悲に叩き込まれる。
その巨体に比べれば、針に刺されたような小さな穴だ。しかし、それでも全身に9本も針を刺されて、平気で居られる生物はそうそう居ない。
レイン・クロインも、重要な臓器にダメージを与えることが出来たかは不明だが、痛みに恐慌をきたしたようだった。狙いも何もなく、滅茶苦茶に暴れ始める。
その巨体の運動性能に比例し、巨大な波が発生。
周囲3隻の
「包囲が乱れます。塞げません」
抜けられる。ここで
「……! <リンゴ>、突撃しなさい!」
「
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