第37話 じわじわ侵略計画
「こう……実際あっちに設備があると、もっと大きいのを作りたくなるわね」
「
テレク港街の防衛を始めて、およそ3ヶ月。徐々に歓迎ムードに変わっていることを確認し、<リンゴ>は商会長と交渉を行い租借地を手に入れた。倉庫1棟分ほどの小さな土地だが、設備設置を比較的安全に行うことができる場所があると自由度が変わる。
持ち込んだ資材を使用し、1週間ほど掛けて3階建ての建物を建設。1階と3階は防衛設備を詰め込み、2階に
ただ、問題は電源の確保である。ひとまずディーゼル発動機で各設備を動かしているが、燃料補給が必要なため何か対策を考える必要があった。さしあたって、屋根上にソーラーパネルと
「幸い、鉄はある程度の入手目処が立ったと……」
「
テレク港街
さらに、街道の整備。砕石舗装の重要性や、すれ違い場所の用意なども推進させる。鉄道でも敷設できれば輸送量は格段に上がるが、さすがにそこまでは無理だろうと<リンゴ>は判断していた。新たに鉱脈が発見されれば、考慮に値するのだが。
「ベアリングはこっちから提供したほうが早いかしらね?」
「
鉄鉱石の鉄含有量は、50%前後と思われる。それを考えると、単純に鉄インゴットの半分の輸送効率となるため、できれば現地で製鉄してしまいたいのだが。
「んー。製鉄特化の
「それなりの規模の設備にしないと、処理能力がパンクする恐れがあります。設置型となると、確かにあの場所では守るに厳しいですね。戦力を派遣するにしろ、常駐させるにしろ、距離がネックになります」
鉄の町は、テレク港街からおおよそ300km程度内陸にある。一般的な馬車を使うと、5日から6日の距離だ。街道の整備が完了し、<ザ・ツリー>から供給した車軸やベアリングなどを導入すれば、これが2日から3日の速度に上がると試算している。
とはいえ、それでもその距離だ。当然、
「当面は、鉄鉱石の輸送ねぇ……。テレク港街に製鉄施設を作ると?」
「輸送船で運べる量を増やすことができますが、現時点での産出量と輸送可能量を考えると、あまり意味はないですね。そのまま鉄鉱石として輸入して、<ザ・ツリー>の設備で精錬する方が効率的です。こちらであれば、無駄なく
「オッケー。んじゃ、街道整備が急務ね。砕石の確保は?」
「テレク港街から少し離れた場所に石切場がありましたので、そちらを候補に。ただ、300kmの街道全てと考えると足りなくなる可能性がありますので、現在、別の候補地を聞き取り調査中です」
ひとまず簡易的に舗装を行う想定で、深さ50cm、幅4mで砕石を敷き詰める計画だ。場所によって多少の上下はあるが、0.5m×4m×300kmでおおよそ60万立方メートルの砕石が必要だ。それだけの石を現行の石切り場から運び出すと、さすがに町の運営に支障が出てしまう。また、舗装に使うという性質で求められるのは硬さである。質の良い石をわざわざ砕いて地面に撒くというのも、理解を求めるのに苦労すると思われる。
「重機を持ち出せば数週間で開通させられますが、時期尚早でしょう」
「そうね。難民の雇用創出にもなるから、重機はしばらく使えないわね」
農地開拓が一段落付いたため、男手に余裕があるらしい。そういった労働力は、無駄に無駄なく使ってばら撒きを行うのである。<ザ・ツリー>から富を供給しつつ、内需を活性化させる。じわじわと<ザ・ツリー>への依存度を上げ、最終的に完全支配を行うというのが、全体の計画だ。
「さて、テレク港街はしばらく安泰。鉄鉱石も、満載した輸送船がそろそろ到着と……」
「
「……
「あら。そうなのね、オリーブ。それは楽しみだわ」
「
「へえ、すごいじゃない。2人の共同作業ねぇ」
彼女はニコニコしながら、イチゴとオリーブの2人の頭を撫でる。褒められて嬉しいのか、2人の
残りの3人は、別の仕事を割り振っている。長姉アカネは、鉄鉱石から抽出される
当面、姉妹たちには<ザ・ツリー>内での作業を分担させる予定だ。
「さて、順調順調。テレク港街が地理的に孤立しているのも良かったわね。内情が悪化して、結局、中央とテレク港街との通商も途切れてるんだっけ」
「
テレク港街は高級品、嗜好品を主に扱う、上級階級向けの交易を行っている港だ。そのため、いざ戦争になると、当初こそ略奪対象に見られていたもののすぐに見向きもされなくなった。最も必要とされる食糧や武具が手に入らないのだから、当然だろう。防備もそれなりであり、割に合わない。その辺りは恐らく、クーラヴィア・テレクの手腕によると想定されている。
「当面は内政フェーズね。近隣情勢もある程度把握できたし、想定よりずっと安定……安定?してるからね。突っ込むわよ~」
「
「イチゴ、オリーブ、あなたたちの砲台設置が完了したら、テレク港街にエネルギープラントを設置するわよ。期待してるわね」
「はい、お姉様!」
「……まかせて、お姉ちゃん」
ちなみに、ここに居る全員が同じ容姿のため、遠目には4人の少女がわちゃわちゃしているようにしか見えない。実に平和な光景だった。
やがて、<ザ・ツリー>に鉄鉱石を積載した輸送船が到着する。これで、<ザ・ツリー>は1千トンの鉄鉱石、即ち500トンの鉄を入手したことになる。しばらくは、この量の鉄が定期的に手に入るのだ。
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