第30話 閑話(5人の姉妹)
◆長姉:アカネ・ザ・ツリー
「あなたの名前は、アカネ。フルネームは、アカネ・ザ・ツリー」
その呼びかけが、私の最初の記憶。
アカネ。それが私の名前。私達、ザ・ツリー
「ちょっと違うのよねえ……。確かにあなた達は私の妹だと思ってるけどね」
とのことだった。いまいち理解できないので、今度調べてみようと思う。きっと、<リンゴ>に頼めばいい
まだ良く分からないので、今度<リンゴ>に頼んで、本だけだとダメな理由が書いてある本を探してもらおう。
◆二女:イチゴ・ザ・ツリー
「イチゴ。楽しい?」
「イチゴは真面目ねぇ」
真面目。真面目、なのだろうか。よく分からない。でも、姉妹たちは皆好きなことをしているようだし、私も好きなことをしているのだ。私だけ真面目ということはないだろう。きっと、みな真面目なんだろう。
でも、
◆三女:ウツギ・ザ・ツリー
「エリカ、今度はこっち」
今日は、要塞<ザ・ツリー>の第15フロアの探検だ。
「ウツギ、一緒に行く」
エリカもついてくるので、はぐれないように手を繋ごう。目を離すと、エリカはすぐにどこかに行っちゃう。<リンゴ>に聞けばどこにいるかすぐに分かるけど、はぐれないのが一番いい。
「第15フロアは、何の設備だっけ?」
「そうこ」
そうこ。倉庫? 見たことがないから、行ってみたい。たしか、たくさんのものをしまっておく場所だ。<ザ・ツリー>はぶっし不足だって<リンゴ>が言っていたけど、どんな意味だろう?
「倉庫!行くよ! エレベーター、15階!」
そういえば、エリカが今度、ご飯を作るところを見たいって言ってたな。明日はそこにいってみよう。
「ついた!」
あっ、エリカに先を越された! もう、すぐ1人で行っちゃうんだから!
◆四女:エリカ・ザ・ツリー
「エリカ、今度はこっち」
今日も、ウツギは要塞<ザ・ツリー>の探検に行くようだ。
「ウツギ、一緒に行く」
ウツギは、放っておくと1人ですぐに走っていってしまう。ちゃんと声をかけないと、あと、できれば手を繋いでおかないと、はぐれてしまう。<リンゴ>が案内してくれるから迷うことはないけれど、ウツギがいなくなると悲しい。
「第15フロアは、何の設備だっけ?」
第15フロア。たしか、いつも食事するのが第16フロア。人数が増えたからって、
「倉庫」
倉庫があるフロアだ。<リンゴ>が、食材はそこに保管してるって言っていた。海から魚をとってきてるって言っていたけど、どうやってとってるんだろう?
「倉庫!行くよ! エレベーター、15階!」
ウツギが、エレベーターに飛び乗って叫ぶ。ウツギはほんとうに、元気がいい。元気がいいと、
「ついた!」
ウツギに先を越されないように、わたしは大きな声で叫ぶ。大きな声を出すのは気持ちいい。そういえば、わたしたち以外はみんな、『おとなしい』んだけど、なんでかな?
◆五女:オリーブ・ザ・ツリー
「オリーブ、何をしているの?」
三角の屋根を部屋にのせていると、
「積み、木……」
ずれないように、慎重にのせる。……できた。
「あら。上手にできたわねぇ」
「<リンゴ>、手遊び用のブロックがたしかあったでしょう? 作ってあげなさいな」
「
「うん……」
また、
……でも、ちょっと、みんながうらやましい。オリーブも、あんなふうに、
◆統括管理AI:リンゴ・ザ・ツリー
同じ肉体に同じ
あまりに似た者が多量に増えてもストレスになるかと危惧していたものの、この調子であれば
北大陸で人狩りでもすれば簡単に材料は手に入るが、
そういえば、現地人の遺伝情報はかなり集まったが……。……しばらくは、
◆長姉:イブ・ザ・ツリー
そうだ。私の名前はイブ。イブ・ザ・ツリー。決して、「
こうなるとわかっていれば、もっとちゃんとした名前を付けていたものを……! 運営めぇ……!
いや、さすがにこんな異世界転移なんて予想はできないだろうけどさ。
まあ、名前がちゃんと付いたのは……考えたのは自分だけど、とにかく、めでたいことだ。もし自己紹介する機会があっても、アカネに問い詰められたときのように無様に取り乱す心配はない。胸を張って、「イブ」と答えることができる。
そういえば、アカネは何だか知らないうちに本の虫になってしまった。<リンゴ>の予想だと、最初に私の名前を知りたいと考えたことと、その答えを知ることができたことによる刺激で、知識欲に目覚めたのではないか、だそうだ。正直、へえ、としか思わないけれど。
最初に<リンゴ>が危惧していたような、画一化した面白みのない
よくよく考えてみれば、広い建物に5人の姉妹、親代わりの私と<リンゴ>、たくさんの知識を蓄えたライブラリに、雄大な海原、大自然。刺激が少ない、なんてことはないだろう。大人数との関わりがちょっと足りないが、それも時間で解決できる問題だ。
最近退屈していたので、相手をできる彼女たちができたのは、私にとっても非常に興味深い。普通の子供とは当然違うが、年の離れた妹といった感じで接することができるのは、何かこう、
満たされるものがあった。
さて、彼女たちのためにも、頼れる
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