第6話 閑話(とある遠洋漁師)

 その日はいつになく大気が澄み渡り、水平線もはっきり見えるような晴天だった。


「よく晴れてるな。魚が跳べばどこでも分かるぜ」


 彼らは、本国でも数隻しか建造されていない大型魔導船を使用した遠洋漁師で、船団を組んで北上中だった。漁場はもう少し北になるが、運が良ければ回遊している魚群に当たることもある。多少の潮の流れの変化もあるので、その日もマストの上で、3人が3方向を確認していた。


「……おい、あれはなんだ。見えるか?」

「ん?」


 そのうち、船の進行方向を見ていた男が何かを見つけた。


「……。雷雲じゃないのか?」


 水平線から僅かに伸びる、白い雲。


「いや、それにしちゃあ細すぎるような……それに、先が光ってるぜ。……うん、伸びてるな……」

「おいおい、新種の魔獣とかじゃないよな?」

「知るかよ……おい、下に連絡しろ! いい望遠鏡があるだろ!」


 艦橋上部に固定されている望遠鏡に、連絡を受けた船員が飛びつく。


「見えた! ……ありゃ何だ?」


 その視界の中で確認できたのは、ぐんぐんと上に伸びていく白い雲と、先端で輝く何か。それはしばらく上昇を続け、そして光が消えた。見ているうちに、真っすぐ伸びていた白い雲は風に流され、形を変えていく。


「……、船長を呼べ!」


 そうして、各船長と船団長たちは発見した白い雲と輝く光について激論を交わすことになる。原因を調べるため近付くよう主張する者、未知の魔獣を恐れすぐに引き返すよう進言する者。しかし、最終的にはあまりにも距離が離れすぎていることと、目的の漁場と方向がずれていることを理由に、予定通り航海を続けることになった。


 旗艦である大型魔導船の能力に自信があったこともあり、未知の魔獣であっても対応できるとの判断でもあった。


 ただし、この未知の現象がまた発生することも考えられ、監視要員は増やされることとなる。

 結果的にはこの警戒は無駄となり、漁を終え帰路に就いても、同じ現象が発生することはなかった。

 監視要員に追加された船員にとっては、マスト先端という悪環境に長時間拘束されることになり非常に不評な措置であった。しかし、漁自体は近年稀に見る豊漁となり、光り輝く雲の柱を発見した時は大漁になるという伝説として、長らく語り継がれることになる。

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