その男、オーク似。 ~毒親に捨てられたけど異世界でほのぼの生きてます~ 異世界辺境村開拓記

山井進

始まりはいつも理不尽だ

第1話 はじまり

 


 鬱蒼うっそうとした森の中の小道を馬車はゆく。


 小鳥が「チチチ」と鳴き、木々の隙間から漏れる光は名もなき小さな花にスポットライトを浴びせている。


 馬車の運転台に座るのは、魔法使いのおじいさん。荷台に座って眠っているのは、屈強な戦士に口数が少なくどこか影のある盗賊。そしてお金が入っているであろう小袋の中身をにやけ顔で数える商人が乗っていた。


 まるでゲームのような世界に俺は生きている!


 俺はススム山井進ヤマイススム


 一念発起して夢と希望を抱いて、この異世界【新日本】に転移した。


 ――といえば格好いいのだが、お恥ずかしい話、なかば強制的に転移してきた者である。


 ◇


「おい! 頼む。助けてくれ。助けてくよ!!」


 焚き火を囲む冒険者たちに俺は必死に訴える。


 必死に伝えようと頑張っているのだが、たった数メートル先にいる冒険者たちには、俺の言葉が届かない。


 なぜなら俺は今、両手両足を縛られ、口には猿ぐつわをされて、木製のおりに入っているのだ。


「ぬぐーむふぅー……。(たすけてくれぇ……)」


 ◇


 辺りは闇に包まれていた。


 パチパチと音をたて焚き火が小さな火の粉を空へと飛ばす。

 その小さな焚き火を三人の冒険者たちが囲んでいた。


「しかし珍しいものを捕まえたな」


 よろいを着た戦士とおぼしき男がこちらを見て感心していた。


オーク・・・の子供なんて本当に売れるのか?」


 盗賊だろうか。背の低い怪しい雰囲気の男は訳のわからない事を言った。


 オークの子供? 一体なんのことだろう。


 いかにも商人のようなターバンを巻いた男は、木のカップに酒を注ぐと盗賊の質問に答えた。


「金持ちの趣味は、俺たち一般人とは違うのさ」


「しかし、こんな物を買って何に使うのだ?」


 戦士の男は至極当しごくあたり前のことを商人に尋ねる。


 子供といえどもモンスターだ。金持ちはそれを買って一体何をするのだろう?

 その質問を横で聞いていた盗賊の男もオークの子供の利用方法など全く見当がつかなかった。


 商人風の男は二人を見つめるとニヤニヤしながら、その質問に答えた。


「世の中にはマニアがいるものでね、モンスターに欲情よくじょうする人間もいるのだよ」


 商人風の男は、おりに入れられた俺をチラっと見て不気味に笑った。


 なんだか寒気がするぞ。まさかとは思うが、そのまさかなのだろうか……。


「そりゃとんでもねぇ趣味だな。お金持ちの趣味ってのは、まったく理解できねぇな!」


「あぁ全くだ。ん、ちょっと待てよ。アレはオス・・じゃなかったか?」


 盗賊の男は気がついた。

 捕まえたオークには、体の大きさに比べて小ぶりなモノ・・がついていたことを。


 商人の男は盗賊の疑問にすぐ答えず、手にしていた木製のカップに入った酒をグイッと一気に飲み干すと小さな声で言った。


オス・・を好む男もいるのだよ」


 商人の言葉を聞いて、戦士は股間がギュッと縮こまった気がした。


「ヒエッ……。おっかねぇ話だ」


「本当に」


 盗賊と戦士の男は、お互い顔を見合わせて苦笑いしていた。


(やっぱりそうか……。そうなんだな……)


 冒険者たちの話を聞いて俺も理解した――。本当は理解したくはなかったのだが。彼らは基本的なことを勘違いしている。


 早く誤解を解かねば、俺は……俺は……


 どこかのド変態・・・に売られてメス・・になってしまう!


 迫りくる貞操ていそうの危機に、俺は再び彼らに強く訴えかけた。


「ぬぐーむふぅーほほーんへはい(俺は人間だ! オークじゃない!!)」



 今から四十八時間前、山井進はこの異世界【新日本】の地に降り立った――。


 ◇



「異世界転移センターへようこそ! 【新日本】に転移をご希望の方は、こちらに氏名、年齢、……をお願いします」


 ハキハキと話す職員に言われるがまま、俺は用紙に必要事項を書いていた。

 ここは国立異世界転移センター。

 その名の通り、国が運営する異世界への出入口である。


 長い受付カウンターには多くの人が列を作っていた。



 俺は今から【新日本】と呼ばれている、異世界へ行く。

 俺にはそれ以外の選択肢はない。


 なぜなら……さっき両親に捨てられたから。


 早い話が俺の両親は毒親というやつで、簡単に我が子を異世界に放り投げる極悪非道の人でなしだったのだ。

 両親が手配した車に乗せられて、俺はこの国立異世界転移センターなるところに来た。


 名前だけは聞いたことがある。

 要するに異世界への玄関口だ。

 俺の両親は異世界に俺を捨てるために、ここへ送り込んだのだ。

 もう帰る家も場所もない。

 俺は異世界へ行くしか、残された道はなかった。


 俺は世間一般でいうところの ”引きこもり” というやつだった。

 引きこもってゲームばかりしていた。

 そのゲームとは誰もが知っている、廃人を作り出すことで有名な『NeDAエヌイーディーエーオンライン』。


 中世ヨーロッパを基調とした剣と魔法のMMORPGだ。


 俺はそのゲームを約十年プレイしていて、ゲーム内ではのつく有名人だった。

 知らない人は新規のプレーヤーかモグリのプレーヤーってくらい有名だった。


 ゲーム内でもトップのクランのマスターもやっていて、起きている時はずっとゲームをしていた。

 もちろん装備は、誰も持っていないようなレアアイテムばかり。


 寝る時以外はNeDAエヌイーディーエーオンラインをプレイした。

 人生を捧げてプレイしていたと言っていい。それくらいハマっていた。


 そんなゲームに夢中になる俺に、両親は嫌気がさしたのだろう。

 両親は俺を異世界に捨てたのだ。ひどい親だろ?


 ◇


 絶望の淵でうなだれている俺を放置して、目の前の職員はマニュアル通りに粛々と異世界転移の手続きをしていた。


 職員は必要事項を記入し終えると、その異世界のことを説明し始める。

 俺は黙ってその職員の話を聞いていると、職員は一枚のパンフレットを俺に手渡した。


『ファンタジーRPGのような世界が広がる夢のような場所で新しい人生を!』


 職員から手渡されたパンフレットには、そう書かれてあった。

 これを見た瞬間、俺の体に電撃が走った。


 パンフレットに書いてある内容、それはNeDAエヌイーディーエーオンラインと酷似しているのだ!


 驚いている俺を職員は置き去りにして、妙に明るいテンションでそのパンフレットの内容を説明していく。


「向こうの世界に転送されると、目の前にはベイサイドシティーという街があります。そこでは、転移された皆様のサポートを行います。そこでは……」


 職員の話を要約するとこうだ。

 ・ベイサイドシティーで冒険者登録をする。

 ・神殿で神さまからスキルを与えられる。スキルの種類は……


 す、スキルだってー!?

 続けて職員は、剣、メイス、槍などのスキルについて説明をしてくれた。


 スキルが選べるのなら、選ぶのはもちろん盾だ。

 盾以外にない!


 なぜかって?

 俺はNeDAエヌイーディーエーオンラインと同じように盾戦士、それも防御に特化したタンク戦士をやってみたいと思ったからだ。


 タンク戦士というのは、防御に特化した盾持ちの戦士のことだ。

 最前線で戦って、自己を犠牲にしながら仲間たちを守る。

 格好いいだろ?


 ゲームでやっていたことを現実〈リアル〉でやれるのだから、すぐにでも異世界に行きたかった。


 剣と魔法とモンスターの住む世界、それを想像しただけで胸が高鳴たかなった。


 ついさっきまでは親に捨てられたことでひどく落ち込んでいたが、今では両親に感謝すら覚えていた。向こうであんなことがしたい、こんなことがしたいと、早くもやりたいことがいっぱいで、行くのが楽しみでワクワクとしていた。


 全ての手続きを終えた転移希望者たちは、更衣室で指定の服に着替える。

 上下麻でできた簡易的な服、靴はなくて裸足だ。

 なんでも向こうで装備一式をくれるらしい。


 期待に胸を膨らませて、俺は異世界への転送ゲートに飛び込んだ!

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