百合の花咲く我が妹で。

直行

第1話 妹《天使をも凌駕する存在》


 妹は名前が百合だけあって、実に様々な色を持っている。


 普段は百合の花言葉と同じ無垢な状態であり、中学を卒業した今でも真っ白で穢れの無いように見える可愛い妹だ。


 半端なく甘いものが好物で、犬でも猫でも亀であろうと半端なく動物が大好きだ。家の事情で何も飼えないせいか、ペットショップや動物園が大好きである。


 花や植物あたりが好きな面を見ると、生き物をこよなく愛す素晴らしい妹としか形容出来ない。


「お兄ちゃん!」


 耳に半端ない天使の声が入ってきたから、もしかして天に召されてしまったのかと思った。


 正気に戻って振り向けば、そこには天使をも凌駕する存在が居たから、半端なく死んでしまいそうになった。


 うちの高校の制服に身を包んだ妹がそこに居た。うちの学校にはアイドルをやっている芸能人が居るんだが、そんなのよりの数億倍は半端なく可愛く制服を着こなせるのがウチの子なんだ。


「どうかな?」


「半端ねえ!」


 可愛いとかキュートとかプリティーとか、天使とか神とか妖精だとか色々な形容詞は浮かぶんだわ。


 しかし妹の素晴らしさをそんな陳腐なものに例えたくなかったから、敢えて単純で半端ない言葉を投げかけてみる。


 褒められたのが嬉しかったのか、気の抜けた微笑みを披露してくれたもんだから携帯電話で写真を撮った。すると今まで真っ白だった百合の表情が変わり、オレンジ色へと変化した。


 写真を取られて気分が良くなったのか、モデルさんみたく背筋を伸ばしてポーズを付けた。オレンジ色の百合の花言葉が華麗であるように、今の妹の状態がまさしく華麗と言っても過言じゃない。


 半端ない百合の華麗ちゃん状態を何度も見返したい俺様は、何度もシャッターを切っては、その度に姿勢変更をお願いする。


 華麗ちゃんな百合の写真が何枚も溜まっていくもんだから、また新しい保存記録媒体を買わないといけないが。妹の為なら、いくつだって用意してやんよ。


「折角だから、お兄ちゃんも着てみてよ!」


 丸くて可愛らしい百合の言葉だったけど、内容を理解し半端なく絶句した。


「この俺様にセーラー服を着てみせろと⁉」


 いくら愛する妹の頼みとはいえ、出来る事と出来ない事がある。まず、当たり前だが俺様はセーラー服を持ってない。仮に百合のを着ろってなったって、絶対に半端なく破れる。


「違うの違うの、お兄ちゃんも自分の制服着てきてって意味なの」


 焦るように取り繕う妹が半端無くて可愛くて、言葉を聞き逃しそうになったのを堪えた。


 しかし、こっちも焦ったわ。まさか百合にそんな趣味があったとか思って、流石のお兄ちゃんも半端なくどうしようかと思ったぞ。


「別にいいが。入学式は明日だし、写真なら……」


「ううん、制服デートしたいの。駄目?」


 上目遣いで覗き込むようにお願いなんかされたから、半端なく断る理由なんて無かった。それどころか望むところっていうか、丁度こっちも制服デートとかしたかったんだ。


 待ってろと一言告げて、一分も経たずに着替えを済ませた。百合のお兄ちゃんは半端無いから、妹を待たすような真似なんて一切しないのだ。


「早いね、お兄ちゃん!」


「半端ねえよ。さて、何処に行こうか?」


 折角のデートだし、隣街に行ってもいいな。何なら入学祝いに何でも半端なく買ってあげよう。本当はサプライズとかも考えたんだが、やぱり妹が喜んでくれるものが一番だ。


「ちょっと待って、今かおりちゃん来るから」


 携帯電話を片手に百合がそう言ったもんだから、俺様は半端なく耳を疑った。


 かおりちゃんとは幼馴染で、隣の家に住む女の子で妹と同級生。なんで制服デートなのに、かおりちゃんが来るのだろうか。


 なんて考えていると呼び鈴が鳴ったので、百合が玄関へと駆ける。いつも廊下は走らないように言っているんだが、子供の時から治らないから半端なく可愛くて仕方ない。


 暫くソファで待っていると、セーラー服姿の半端ない女の子が二人リビングに現れた。片方は天使を凌駕した存在で、もう片方はウチの制服に身を包んだ幼馴染の女の子だった。


「かおりちゃんも制服着たんだよ!」


「……ど、どうも」


 着慣れてないのか恥ずかしいのか、かおりちゃんは妹の隣でモジモジしていた。らしくないって思ったが、これもこれで悪くない。天使を凌駕した存在の引き立て役になってしまってはいるが、彼女も半端なく魅力的な女の子だ。


「どう? かおりちゃんも可愛いでしょ?」


 百合の言葉に改めて、かおりちゃんの方を向く。彼女はいつも好んでスカートを身に着けないから、やはり制服だと良いものだ。携帯電話を取り出して、妹と一緒にフレームに収めた。


「ちょっ、イキナリ撮らないでください!」


「すまん。半端なく可愛かったから……」


「……えっ?」


 かおりちゃんがハトに豆鉄砲な顔をしたから、まずいって半端なく思った。


 幼馴染とはいえ、妹の前で他の女の子を褒めるって、半端なく兄失格だと思われてもおかしくない発言だわ今の。


 俺様は咳ばらいをして、何とか誤魔化すように一言付け加えるとする。


「半端なく百合がな!」


 気が合付けば二人の姿は消えていて。玄関へ向かうと愛しの妹と、かおりちゃんの靴が無くなっていた。携帯電話を見ると、先に行くねと百合からメッセージが入っていた。


 なんでやねん、制服デートって言ってたじゃないか。急いで財布と携帯電話を掴んで、家を飛び出し駆けだした。

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