第17話

 同じフロアには、私のいる販売部のほかに、通路を挟んで宣伝部もある。無音声で各チャンネルの映像が流れているテレビが数台。

 昼間は、宣伝部の面々のほとんどが席にいることはなく、事務の子が一人しかいないなんてことがよくある。それなのに、今日は珍しいことに勢揃いしているなぁ、と思ってはいた。


 突然、フロアがザワザワしはじめた。


「誰か、来てんのかな。有名人でも。」


 通路のほうに顔を向ける笠原さん。


「え、こんなとこに来ることなんか、あるんですか?」

「いやぁ、ほとんどないけど。」


 ザワザワが、女子の『キャー!』という甲高い悲鳴に変わったのは、すぐのことだった。


「な、なんだ、なんだ。」


 めったに動じない、というか反応しない楢原さんと、笠原さんが席から立ち上がった。一方の本城さんは無反応。パソコンから目も離さない。

 とりあえず、私もひょこっと通路の方に顔を出して、固まる。


 なんで?

 なんで、そこにいるの!? 

 遼ちゃんっ!!!


 そう、そこには宣伝部の部長とにこやかに話をしている相模 遼が立っていた。

 見るからに、芸能人オーラが半端ない。ま、眩しすぎるよ、遼ちゃん!


「へぇ、あの表紙やってた子か。」


 笠原さんの声が聞こえたわけでもないはずなのに、ふっと、こちらに顔を向ける遼ちゃん。たぶん、私に気付いてる。だって、口元がちょこっとだけ笑ってるもの。


「おっと。ありゃ、相当イケメンだねぇ。神崎には目の毒か?」


 いきなり後ろから大きな手で目を隠そうとする、笠原さん。


「え? え? そ、そんなことないですよ。目、目の保養っす。」


 慌てて大きな手をはずそうとして、笠原さんの手をつかむ。ふと視線を感じて遼ちゃんの方を見ると、完全に無表情になった彼がいた。


 怖いっ。

 怖いよ、遼ちゃんっ!!


 でも、それも一瞬のこと。すぐに部長と挨拶をかわして、フロアにいる社員たちに向かって手を軽く振った。


「きゃぁぁぁっ!」


 す、すごい声。よくよく見たら、別の部署の人たちもいたみたい。

 遼ちゃんたちはそのままフロアを出て行くと同時に、女子たちの悲鳴は徐々にひいていき、いつも通りの静かなフロアに戻った。

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