おデブだった幼馴染に再会したら、イケメンになっちゃってた件

実川えむ

第1章 幼馴染が王子様になってました

第1話

 教室の戸を開けたら、そこにはいくつかのカメラとライト、難しそうな顔をした大人たちと、おしゃべりをしてる高校生たちがいた。


 高校生……と言っても、本当に全員が高校生なのかはわからない。


 だって、私、神崎 美輪かんざきみわだって、制服着てるけど、高校生じゃない。


「美輪! 美輪! こっち!」


 手を挙げて呼んでるのは、従弟の神崎 一馬かんざきかずま


 四つ年下の彼は、年相応にブレザーを着ているけど、私はこう見えても大学四年。

 もう高校の制服なんか似合う年齢でもないのに、一馬に頼まれてこんなことになった。


 一馬はエキストラの会社に登録していて、時々、ドラマや映画のエキストラに参加している。ちょっとしたお小遣い稼ぎと本人は言ってるけど、のちのちは、芸能の仕事がしたいのかな、と、思ってる。


 まぁ、自分で言うのもなんだけど、うちの家系の中でも比較的美形ぞろいの一馬の家族。たぶん、叔母さんの血筋なんだろうなぁ、と思うのは、うちの家族と大違いだから。


 私を含め、決して美人とも美男ともいえない。まぁ、どっちかといえば、よく言えば可愛らしい、ふっくらとした感じ、よく言わなければ太っている家族たち。

 兄貴はいても、弟や妹がいない私には、一馬は弟みたいなわけで、その弟からの頼みであれば、断るに断れない。


 本来なら、エキストラの会社から派遣されてくる高校生風の子たち(実際、高校生な子もいる)なんだけど、平日の午前中ということもあるのか、人の集まりが悪かったらしい。


『内定もらってるんだし、どうせ、暇してるでしょ』


 という一馬の言葉と、終わったらケーキ食べ放題つける、という約束を取り付けたので、やってきたわけだ。


 高校の制服なんて二度と着ないだろうなぁ、と思っていたけど、着てみると、意外にまだいける自分を発見。


 ……たんに化粧が薄いのと、童顔なだけという事実には目をつぶる。


「美輪、遅かったじゃん」


 空いていた席に着くと、前の席から、両の頬を膨らませて、ジト目で私をにらむ一馬。


「ごめん、ごめん。思わず鏡に見とれててさ」


 ニヤニヤしながら答えると、


「まぁ、確かに馬子にも衣裳だけどさ」


 言いながら、私のネクタイを直す一馬。


「ところで、今日の撮影って、なんの?ドラマかなんか?」

「ふっふっふ」


 イケメンなのに、気味の悪い笑い方をする一馬。もったいないことしないで。


「来期から始まるドラマらしいよ。ゴールデンタイムで学園ものなんて、久しぶりなんじゃないかなぁ。」

「へぇ……主役に自信ないとなかなか難しいんじゃないの……?」


 おしゃべりをしている間に、撮影の準備ができたようで、スタッフの方たちの動きが慌ただしくなった。


「では、今回の主役の兵頭 乃蒼ひょうどうのあさんと、相手役の相模遼さがみりょうくん、入ります~!」


教室にいたエキストラの方々の、静かなどよめき。


「おはようございます。よろしくお願いします。」


 涼やかな声と共に入ってきたのは兵頭 乃蒼。漆黒のストレートのロングと、陶器のような色白な肌、そしてなんといっても印象的な彼女の大きな瞳。女優オーラ、ガンガンの彼女。女の私でも、惚れちゃう美しさ。


「……よろしくお願いします。」


 彼女の後から現れたのは、彼のトレードマークとも言える栗色のクリクリした髪に、冷ややかな眼差しの相模遼。あの瞳がたまらないのよぉ~って、前に勤めてたバイト先の女の先輩が言ってたっけ。


「ほえ~」


 二人並ぶと絵になるなんてもんじゃない。思わず、美男美女カップルに見とれて、呆ける私。

 そんな私に相模が、、ガン見。

 視線の強さに硬直する私と対照的に、前の席にいる一馬は、前に立ってる二人? いや、相模になのか、Vサインしてる。小さい声で、「ヤッホー」とアピールするほど。


 ……?

 ん?

 二人は知り合い?


 思わず相模と一馬を見比べると、相模の方は頬をひきつらせてる。そんな彼に向って「お仕事、お仕事!」と相変わらず小声でアピールしまくる一馬。


「一馬、やめなさいって」


 思わず、後ろから肩をつついた。


「はーいっ」


 少しばかり残念そうに言いながら、最後にニヤッとしたのを、私は見逃さなかった。

 こういう時の一馬は質が悪い。


「もう、面倒なこととか、やめてよねぇ」


 私はため息をつきながら、小さく呟くしかなかった。

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