デジタルクラウドメモリーズ

平野真咲

女神の日記帳クラウド

 英知の女神、ソフィリアノは1羽の鳩、ポスーラを飼っていました。ポスーラは人間の言葉をそっくりそのまま覚えることができ、雲の上のソフィリアノに人間世界で起きたことを伝える仕事をしていました。

 ソフィリアノの仕事は、日記帳に人間世界のことを記していくことでした。ソフィリアノは人間世界の話を1つ聞くと、1つ日記帳に記していきました。そして日記帳に載っている神の世界のお話を1つポスーラに覚えさせて、人間世界へと伝わせていきました。

 さてある日、ソフィリアノはポスーラの話を聞き終えると、世界の終わりについてのお話をポスーラに聞かせました。ある日突然大洪水が起きて、町をすべて飲み込んでしまう、というお話でした。ソフィリアノが知っている神の世界のお話はこれで最後だったのです。ソフィリアノは、まもなく世界が同じ運命をたどることを知っていました。

 ポスーラから世界の終わりについてのお話を知った人間たちは、文字が書ける者は手紙で、絵が描ける者は絵で、話ができる者は話で、人間世界の技術や民話をポスーラに託しました。雲の上のソフィリアノに書き留めてもらうためです。人間たちはソフィリアノの日記を、クラウド、と呼んでいました。ソフィリアノはポスーラが足につけた手紙を1枚読むとクラウドに書きました。口にくわえた絵を1枚見るとクラウドに書きました。覚えてきた話を1つ聞くと、クラウドに書きました。

 クラウドのページが埋まってしまうと、人間世界では大洪水が起き、町のすべてが飲み込まれてしまいました。人間たちは深い眠りにつきました。

 樹が芽吹くころ、眠っていた町の人間が起き上がりました。ソフィリアノはポスーラにクラウドを託すと、人間たちにクラウドを見せて回りました。文字が読めない人間たちには話して伝えることもありました。日記を見た人間たちは、町をまたつくるために懸命に働きました。ソフィリアノも新しい日記帳に世界のことを記すようになりました。

 町が元のように戻るころ、世界の終わりについてのお話をポスーラに聞かせました。ソフィリアノは、再び世界が大洪水に見舞われることを知っていたのです……。


『ZMORFA神話大全』「ソフィリアノの日記帳クラウド」より

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