スマックザット!

ろうと

第1話

 我慢にも限界がある。



「し、仕方がないじゃん。ぼ、僕だって無理矢理する気じゃなくて。てゆーか、む、むしろあっちから誘ってきたわけで」



 目の前にいるふざけたことをのたまう豚。

 国益の為、多少のわがままには目をつむってきた。


 が、限界である。


 椅子から立ち上がりテーブルの向かいに座る醜い豚に近付く。

 豚は立ち上がる俺に一瞬肩をびくつかせたが俺が浮かべる笑みを見て安心したのか醜悪な顔に醜悪な笑みを浮かべゆがめた口からはデュフデュフと気持ち悪い笑い声をあげた。



「さ、さすがはクロノス陛下。どうやら僕には何の非がないことを分かっていただけているとお、お見受けする。デュフフ」



 浅ましい、実に浅ましい。


 醜いのは見た目だけではなくどうやら心も腐りきっているようだ。


 まともに人と目を合わして話もできずいつも泳ぐその目にイラついていた。

 そのくせ自尊心だけは一人前の様だ。



「そ、そうだ。こんなことが二度と起きないように、ぼ、僕に専用の性奴隷を用意してくだされ。そうすれば、ぐぇっ!!!」



 気が付いたら頬を殴りつけていた。

 もちろんグーでだ。


 魔力を籠め殴りつけたためその体は椅子ごと勢いよく吹っ飛び壁に派手にぶつかり鈍い音を立てた。


 ここには豚の他に数名の部下がいるが皆驚いた顔していた。


 豚の悪行に抗議してきた部下たちをいつも宥めていた俺がまさか直接手を上げるとは思っていなかったのだろう。



「へ、陛下。な、何をなさるのですか」



 豚が体を起こし、血まみれになった顔でぶつぶつ何か言っている。

殺すつもりで殴りつけたのだがまだ息があるか、さすがだな。



「へ、陛下、ぼ、ぼ、ぼ、僕を殴った。殴ったんだ!も、もう僕はこの国に力を貸さないからな!ふ、ふざけるな!ぼ、僕は勇者だぞ!あ、謝るなら今、ふげっ!!!」



 醜い顔に強烈な蹴りを加えた。なかなかな手ごたえと破裂音の様ないい音が鳴った。少し気持ちがすっとした。



「おい、この豚を地下牢へ入れておけ」



 いままでの光景を見て固まる部下たちは俺の声を聴きはっと我に返り、慌てて豚を部屋から連れ出していった。



「クロノス様、何もご自身で手を下さなくともよかったですのに。おっしゃっていただければ私の剣で叩ききってやったものを」



「あぁ、いやすまん。我慢の限界だった。皆に我慢を強いておきながら申し訳ない」



 部屋に一人残った部下、近衛騎士団長レーネが彼女の美しい顔に良く映える、身に着けた白銀の鎧と一緒に携えた剣の柄に手をかけながら言ってきた。



「いえ、そんな。陛下が謝られるようなことはございません。それにしてもあれが、伝説に聞く勇者だとは信じられません」



「それは俺も同感かなぁ。まぁ確かに戦闘力はそれなりのものがあるようだが人々を率い国に栄光をもたらす存在には全くもって思えない」



「今回あのぶ..勇者が襲いかけたメイドですが、未遂には終わりましたが襲われたという事実は非常に外聞が悪いとのことで決まっていた婚約が破談になったとか。父であるエルメル伯爵はたいそうご立腹の様です。代わりに伯爵は陛下に娘との婚姻を望まれているとのことですが」



「そうか、なら俺から何か伯爵に向けての賠償を考えておくよ。婚約はなしの方向で」



「承知いたしました」



 レーネが部屋を去ったあと椅子に腰かけ天井を仰いで溜息をついた。


 親父も面倒なものを残していったもんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る