管狐4 俺の眠りを妨げる者は、以下略。ーその1

 バタバタ、バタバタ。

「兄貴ぃー、兄貴―っ」

 ドタドタ、ドタドタ。

 バタン! ドタン!

「兄貴ーっ、あーにきぃー。あーにーきー、あにきあにきあにきあにき」

 遠慮げのない足音と、水量を誤った鹿威ししおどしのように息つく間もなく連呼される声。

「兄貴ー、兄貴ー。ねー、兄貴。ねーねー」

 誘鬼は閉じていたまぶたを、さらにきゅっときつく閉じた。同時に奥歯もぎりりとかみしめる。

「兄貴―。兄貴。ねーねーねーねー」

 ねーねーねーと頭上から声が、昨夜の雨のように降ってくる。夏場のミンミン蝉の時雨も大概だが、今の状況、正直言って蝉しぐれの方がなんぼかマシだ。

「……」

「ねーねーねー。兄貴ー、ねーねー」

「……っ」

 意地でも起きないと決め込んでいる誘鬼であるが。

「ねーねーねー」

 ぶちっ。

「ね……」

「うるせいっ!」

 頭の横にかがみこんでスコールのように「ねー」を降らせる声の主に、誘鬼はカッと目を見開き起き上がりざまに鉄拳を繰り放った。

 が、それが相手に届くことはなかった。

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