拝啓、何万メートルも先の君へ

yua

プロローグ

「焦がれても、届かない。」

そんな言葉を聞いたのはいつだっただろうか。何かのドラマだったかもしれないし、漫画だったかもしれない。けれどそれがどのワンシーンだろうと、そんなことはどうでも良くて、ただひたすらにその言葉を噛み締める。やがて理解を終えると零れるのはため息ひとつ。独りの部屋に嫌という程響くように感じた。



「おはよー朔夜さくやっ!」


朝一番、信号待ちをしていた僕にいつもの馬鹿でかい声で叫ぶ。そんなしなくても聞こえるっつの…


「うん、おはよう。千夏ちなつ。」


「ねーねー、今日の部活ってどうする?」


「ん?どうするって?」


「えー、覚えてないの?先輩達がいなくなったから私達がメニュー考えるって話だったじゃん!」


…そうだった。先輩のことで頭がいっぱいだったから全然考えてなかった…。


「あー、そういえばそうだった、かな?千夏は何か考えてるの?」


「ふっふっふっ…私のことだぞ」


そうしてドン、と胸を張る。


「考えてると思うか?」


……。

うん、何となく分かってた。てかそうだよね。ほんっと臨時とはいえこいつ副キャプテンにするとか先生もどうかしてるな…


「まあ、私はとりあえず先輩達が今までやってきてたメニューでいいと思うけど。」


「うん!じゃあそれでいこー!」


「ほんと千夏はお気楽だね…」


呆れつつもそんな彼女の態度がいつも通りであることに安堵する。

それから、学校に着くまでどうでもいい話をしていた。はずだった。


「あのさ、、、なんで先輩達停部になったのかな…。」


ふとバツが悪そうに顔を歪め、僕に聞いてきた。負の感情が止まらない噴水のように高く、深くから湧き上がってくる。

やめて、やめて、やめてやめてやめて…!


「そんな話聞きたくない!そんなの、信じない!」


思わず感情的になってしまう。でも、もう手遅れだ、抑えられない。決壊した感情が漏れ出ていく。


「先輩がそんなことするわけない、咲良さくら先輩はそんな人じゃない!僕は……!」


そう言いかけて、自分の過ちに気づく。


「え、あ、ご、ごめん……」


恐らく、いきなり怒った僕に呆気にとられている千夏を後目に、そそくさと踵を返す。




最悪だ!最悪な1日だ!




彼女の叫ぶ声が聞こえる。その声が遠のく、

視界がぼやける。脚がもつれてそのまま崩れ落ちる。そんな僕に、街ゆく人が奇異な視線を向ける。


「せっかくよく晴れた日なのになぁ…」


太陽は平等に人を照らす。憂鬱に思う人、楽しみで仕方ない人、僕みたいに心が荒んでいる人。そんな平等が今は、とてつもなく痛い。嘲笑うように惨めな僕を照らしていく。もう、止めてくれ…。


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