ドM彼氏。

秋月 春陽

「踏んでください」

第1話

 彼からの初めてのプレゼントは、真っ赤なピンヒール。燃えるような赤は、情熱的な気持ちにさせる。彼は跪き、ベッドに座る私の足に、そっとピンヒールを合わせた。


 流麗な手つき。まるで執事がお嬢様に接するような恭しい態度が、新鮮でくすぐったい。彼のしなやかで長い指を、私はうっとりと見つめていた。


 普段は厳しい上司の彼も、2人きりの時は甘いのね。これから何が始まるのかしら。その指で、私に触れてくれるの?


「君は本当に理想的だ」


 低い、響きのある声。ふふ、ゾクゾクしちゃう。

 その場に両膝をついて私を見つめる彼が、不意に、一歩分後ろへ下がった。


 ん……?

 私と彼の間に距離があき、謎の空白ができる。かと思うと、次の瞬間には彼の後頭部が距離を埋めた。


「どうか……どうか、僕を踏んで下さい!!」


 真っ赤なピンヒールの向こうで、床にへばりつく彼。それはそれは――――……見事な土下座だった。




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