第3話 新しい生活

 ようやく一人で外に出られるようになった頃、私はすっかりこちらの世界の言葉も大人顔負けの口を利くレベルになっていた。頭の良さだけは自慢なんだ。他に取り柄がないとも言えなくはないのだが。


 日本からの転生者専用のスクールまでは、馬で30分ほどだ。転生しても相変わらず運動神経のない私は、何度も落ちそうになりながらポニーに乗って2時間かけてスクールへと辿り着いた。


 スクールでは学年を分ける代わりに”前世”で死んだ年代や職種などでクラスが分けられているようだった。それもそうだ、高校生と一緒に数学なんかやらされた日にゃあ、唯一の自慢の頭の良ささえ失ってしまおうというものだ。


 教室に入り周りを見回すと、一体何の集まりなのかわからないような老若男女。その中に、ひときわ輝いている女性を見付け、私は早速挨拶に行った。なにせクラスはエンジニア組だ、それぞれが自分勝手にやっているようなのでこれを咎めるようなクラスメイトもいなかった。


「こんにちは、はじめまして。もしかして、”前世”でお会いしましたかね?」どこかで聞いたようなセリフだな、と思いながら言った。

「ふふ、はじめましてだと思いますけどね。どちらのご出身ですか?」


”前世”での思い出話をお互いにいくつか話したところ、その美しい女性はどうやら私が高校生時代に片思いしていた先輩だったということがわかってしまった。だが、片思いのことは伏せながら、「はじめましてじゃありませんでしたね」と言って笑っておいた。


 ***


 馬に乗る運動神経のない私がポニーに乗って学校に来たことからもわかるであろう、この星の文明レベルは低い。エンジニア科の我々は、”前世の記憶”をフルに活かし、文明レベルを上げることを目的として学術書を書いたり簡単な工作をしたり、そのために必要な知識の座学を受けたり、というのがスクールでの生活のほぼ全てとなるようだった。


 憧れの先輩と同じクラスで学校生活を送ることができる、私はそれだけで嬉しくて、”最期の日”に足を滑らせてしまった自分の間抜けさにすら感謝してしまうこととなった。

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