リントの特訓 ツノウサギ討伐③
「早速発見!」
追いかけはじめてすぐ、ちょうどいいタイミングで一匹のツノウサギが俺たちの前を横切った。
「リントくん! いっちゃえ!」
「あ、ああ!」
慌てて見つけたツノウサギを追いかけようと手をかざすと、勝手にカゲロウの一部が飛び出して逃げる間もなくツノウサギが焼失した。骨も遺さず。
「嘘だろ……」
「にゃはは。カゲロウちゃんも気合が入りすぎたねえ」
肩から顔を覗かせるミニカゲロウが申し訳無さそうにシュンとしていたが、ビレナは気にする素振りもなく撫で回していた。ちょっとシュンとなったカゲロウは顔だけの状態でも可愛らしい。
俺も一緒に頑張ろうという気持ちを込めて撫でる。
「大丈夫。もう依頼のためとかじゃなく、なるべく早くツノウサギを減らしたほうがいいから」
「キュクー!」
もういまさら、依頼がどうこう言っている場合ではない。
俺たちは村を助けるために狩りをするのだから、一匹や二匹の素材を逃しても気にすることはない。
「ほら! 次が来たよ!」
「カゲロウ!」
「きゅっ!」
「キュルケ⁉」
二匹目、今度こそと思ったがカゲロウより先にキュルケが動いた。
キュルケの体当たりはうまいこと加減がされているようで、ほとんど傷もないままツノウサギを捕らえていた。
「すごいな」
「きゅっ!」
得意げに胸を張るキュルケと何故か対抗意識を燃やすカゲロウという構図になった。
「わかったとおり心配するのは自分の安全じゃなくて加減が出来るかどうかだからね」
「ああ……」
本当にそうみたいだ。
「とにかく村を助けるためにはたくさん倒さなきゃだから、最悪私が百体分の討伐証明は集める」
「その方がいいな……」
それが確実だ。それなら俺も役に立てる。
「でもねリントくん」
「ん?」
ビレナが笑ってこう言った。
「リントくんが強くなれば、村の人達はもっと安心するよ」
「安心……」
「うん。終わった時、たくさんツノウサギの素材があればさ、それだけ倒したんだってわかりやすいから」
「そうか……」
たしかにそうだ。
俺に課せられた依頼はツノウサギの百体の討伐、それだけだ。
だがそれだけで良いはずがない。
ツノウサギは村に被害をもたらさない数まで減らす。そして何より、それを村の人達に伝えて安心させてあげないといけない。
きっと旦那も子供も失ったはずの老婆が、気丈に村長として村人の前に立っていた。
戦える男たちはみんな、腕を、足を、時には命を投げ打ってでも、村を守るために戦っていた。
決死の覚悟でギルドに依頼を届けた村人もいた。
その想いに応えるのが、冒険者というものだ。
「わかった!」
巣の目星はビレナにつけてもらってある。
ペースよく現れるツノウサギを見ると、日が暮れるまでに十分に百体以上は出てきそうだなと感じた。今日のうちにビレナが示した巣穴を根絶しなければならない。
「行くか」
「きゅっ!」
「キュクー!」
二匹と息を合わせて現れるツノウサギを狩っていく。
ギルにも参加してもらえればいいのだが、いかんせん大きすぎてさすがにツノウサギも逃げ惑う。オーラの問題ではなく単純なサイズの問題なので今回は留守番だ。
幸いカゲロウのおかげで視界に捉えさえすれば仕留めることは出来る。徐々に加減を覚えたおかげで回収できる部位も増えてきていた。
途中から解体作業はキュルケに任せることにして、ややこしいものはそのまま収納袋に入れていくことにしてスピードを上げた。
ほんとに収納袋ってすごいな……。これは大金が飛び交うのもうなずける。
Bランク以上の冒険者なら、効率を考えれば借金をしてでも持っていたほうがいいことが理解できた。
「ほんとにビレナ様様だな」
「きゅっ! きゅっ!」
「もちろんキュルケも助かってるからな」
解体作業をしているキュルケからも褒めろと声が上がったので撫でてやった。
満足そうで何よりだ。
その後、お互いに加減がわかってきて楽しくなってきたところ、ツノウサギの討伐数も百に迫ろうかというタイミングで初めて、ミスらしいミスを起こした。
いやむしろこれまでが良くやっていただけだな。
「囲まれたな」
「きゅっ……!」
ツノウサギの大量討伐のクエストなのだから、こうなることは予想できていた。
逆にこれまでそうならないようにうまく立ち回れていたことが良かったと思わないといけない。
「大丈夫」
見たところこれが最後。追い込まれたのは向こうのはずだ。
これまで逃げ回るように動いていたが、今回はその様子もない。
白いもこもこした生き物が震えながらこちらを睨む様子だけを見れば、かなり可愛そうな気持ちもある。
だがここまで戦っていればわかる。あれは本来の姿ではない。
「いくぞ、カゲロウ」
「キュクゥゥウウウ!」
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