リントの特訓①

「じゃあリントくんのランクをさくっとあげていこー!」

「クエスト十個……本当にやるのか……」


 ビレナはこちらを確認するまでもなく、すでに準備に取り掛かっている。


「並行して精霊憑依の練習もしていこうね」

「スパルタすぎる」


 ギルに、いや正確には前に座るビレナにしがみついて言われるがままにギルに指示を出している間にたどり着いていたのは見渡す限り何もない、誰もいない草原地帯。

 だが、ここがただの草原地帯であれば、冒険者ももう少しくらい気軽に立ち寄るはずだった。

 これだけ広大な土地に誰の人影も見えないのには理由がある。

 ここは人呼んで――


「推奨ランクB……還らずの草原……」

「ま、大層な名前が付いてるけど大したことないから」

「いやいや……」


 まあビレナからすればそうなんだろうなあ……。いまも背後の土中から襲いかかってきたメドーワームをノールックで叩き潰しているし。あれも危険度Cだったはずなんだけどな……。

 ビレナがこの場所を選んだ理由だけはわかっていた。


「Cランクの依頼をBランクのフィールドでこなすなんて裏技があったんだな……」

「ふふーん。今のリントくんなら、これが普通なんだよ」

「そうなのか……いやそうなのか?」


 今俺が無事に生きてここに立っていられるのは、カゲロウとギルとキュルケがそれぞれ周囲を警戒してくれているからに他ならない。特に見た目からして強さがおかしいカゲロウやギルを見て襲いかかってくるような魔物はここにはいないというわけだ。

 だがいつまでもこれに頼っているわけにはいかない。


「リントくん。ちゃんとおびき出さないと、いつまでも終わらないからね!」

「わかってる」


 そんな魔物が、ギルやカゲロウより強いはずのビレナに襲いかかる理由は、ビレナがその力をコントロールして弱く見せかけていたからだ。


「ま、自分のコントロールと違ってこの子たち全員は難しいよね」

「それはそうでもないんだけどな」

「そうなのっ⁉ すごいね! リントくん!」


 ビレナのイメージと俺の感覚は結構差があるようだ。実際には三体くらいのコントロールはそう大変な話ではなかった。

 今俺がそう出来ない理由は、自身の身の安全を考えてのことでしかない。

 要するに……覚悟の問題だけだ。


「やるか」

「カゲロウちゃんは憑依してもらえば力を落とせるはずだよ?」

「そうなのか?」

「キュクー」


 同意するように鳴き声をあげて首を縦にふるカゲロウ。近づいてきたので撫でてやると炎の毛並みが嬉しそうに揺れていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る