地下水道の調査依頼⑧
「なん……で?」
「にゃはは。遅くなっちゃってごめんね!」
俺を守ろうと立ちふさがったキュルケのさらに前に、救世主が現れていた。
Sランク冒険者、ビレナ。
飛び込んできた一撃でクイーンウルフを吹き飛ばすと、体勢を立て直すまでもなく接近し、その勢いのままに首をへし折る。
すごい……。俺達じゃどうすることもできなかった相手が瞬殺……。
「これが……Sランク冒険者……」
一通りの流れを見て、全身の力が抜けるのを感じた。
「良かったぁ……怪我は……ないね。ほんとに良かったぁ」
そういって朗らかに笑うビレナ。俺の無事を確認するとふにゃっと笑ってくれていた。
死を覚悟したところで助けてもらうなんて、普通ヒロインと立ち位置が逆な気もするが、まあ良かった。本当に、良かった。
「助かった……」
「うん! そこでシーフの子に会ってね。すごい形相で助けてくれって」
「ああ……」
最高の援軍を送ってくれたようだ。
「まさか調査依頼で命がけになるとは思わなかったよ……」
「そうだね……でもね、どんなクエストでも、絶対の安全はない……それが冒険者だからね」
それだけ言うとビレナはクイーンウルフの解体に向かった。
捌きがいのある巨体をスルスルと解体していくビレナ。慣れた手付きだった。
「これはリントくんのだね」
「え?」
何故か渡されたクイーンウルフの牙を見る。
「リントくんが見つけて、リントくんが逃げずに立ち向かった証」
「それは……」
そうかもしれないが……。だが、ビレナがいなければ俺は死んでいただろう。
それを考えれば当然、これはビレナの取り分のはずだ。あっさり受け取るのはためらわれる。
なにより狼系の魔物の討伐証明が牙だ。これでは俺がBランク危険度の魔物を討伐したことにもなってしまうはずだった。
「まあまあ。お守り代わりに持っときなよ」
返せる雰囲気でもないので仕方なく手持ちの袋にそれを入れた。
クイーンウルフの牙は超高級品だ。俺がこれまで地道に稼いできたトータルの金額の優に数倍になる。
そうだな……今の暮らしで言えばおそらく、十年くらいは何もしなくても、不自由なく暮らせるくらいの価値があった。
「それにしても本当に面白いよね。リントくんも、その子も」
キュルケを指してビレナが言う。
「面白い、か……」
「きゅっ!」
何故か誇らしげに胸を張るキュルケ。
「そうそう! 面白い子だよね! やっぱり私の目に狂いはなかったよ」
いくらなんでもキュルケがクイーンウルフに勝てるとは思えないけど……。
「にゃはは。あんまわかってない顔してるなー?」
「まぁ……」
「君が普通のテイマーとは違うことはよくわかったし、君と長く一緒にいた子がどれだけ強くなるかもわかった」
俺はあんまりわかっていなかった。
「と、いうわけで! 今回のことは一件落着! お疲れ様、リントくん」
「そうなのか」
改めて、全身の力が抜けた。良かった。助かったんだな……。
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今回の話はここまで!
この後もエピソードごとに更新予定です。
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