地下水道の調査依頼①

リントがギルドでビレナと出会ってから、再合流するまでに受けていたクエストの話

WEB版3話と4話の間に入ります

12,000文字くらいあるので分けて投稿していきますー!


ーーーーー



 ビレナとの待ち合わせまでは時間もある。受注した二つのクエストに行って戻るくらいが丁度いいだろう。

 目的地は下水道の入り口。割の良い依頼だったのでライバルも多いと思うが、そんなに焦るほどではないはず。

 それに今日に関してはもう、Sランク冒険者に声をかけられたという事実だけで満足だ。調査クエストは最低限の参加報酬だけでも満足できるなと思っていた。

 ただ予想外なこと、そのSランク冒険者が同じ依頼のスタート地点にいた。


「へぇ、リントくんもここの依頼、受けたんだね」


 下水道の依頼内容は調査。適性ランクはDランクだったはずだ。

 なんでSランクにもなったビレナがいるのかと疑問が生じる。


「にゃはは。不思議そうな顔してるね」

「そりゃ、Sランクが受けるような依頼じゃないだろ?」


 調査依頼はDランク向け依頼。Dランク以下の優先クエストではないとはいえ、地味な仕事になるため、花形であるBランク以上の冒険者が受けることなどほとんどないと思っていた。


「リントくんはSランクがどんな依頼を受けてると思ってたの?」

「そりゃ、危険度Aクラスの魔物の討伐とか」


 そういう強力な魔物への対応が求められるのではないのだろうか。そのためのランク制度だ。

 こんな誰でもできる依頼ではなく、Sランクだからこそ求められる仕事に時間を使うと思っていた。

 だが、ビレナは丁寧にこの思い違いを正してくれた。


「うんうん。なるほど。じゃあ、そのAランクの魔物はどうやって見つけられるでしょうか⁉」

「どうやってって……あっ!」

「さすがリントくん! すぐ気づいたねー」


 Sランク冒険者に褒められるのは素直に嬉しいな……。

 確かに危険度Aクラスの魔物を伐してほしいなんて依頼、滅多に出るはずがないんだ。

 なぜなら依頼を出したいと思った人間がいても、そもそもそう思うような相手に対面してしまった時点で生き残れる可能性のほうが少ないからだ。

 対峙した時点でゲームオーバー。逃げることもままならない。

 それが危険度Aクラスの魔物だ。だからこそ、危険な生き物なんだ。

 依頼が出る頃には被害は甚大なものになっていることが多いはずだった。


「こういうそれっぽい依頼で、事前に危険を察知するのもこれから必要になる力だよ」

「勉強になる……」

「にゃはは。少しずつ覚えていけばいいよ」


 なるほど……そうか。

 被害が出る前に未然に防ぐという力は、たしかに高ランクの冒険者には必須とも思える力かもしれない。

 雲の上過ぎて見えていなかった景色を見せてもらった気がした。

 これがSランク……。最上位の冒険者か。


「じゃ、私はちょっと先に行くから、無理しちゃだめだぞー?」

「わかってる。自分にできることをやるよ」


 そういうとあっという間にビレナの姿が消えた。

 戦っている姿を見た人間が目で追えなかったと言った、だっただろうか。それもあながち間違いではなかったんだろうなと思ってしまうスピードだった。

 俺の目には、いつビレナが動き出したかすらわからなかったくらいだからな……。


「俺たちも行くか」

「きゅっ!」


 周りを見ればまず、五人組の男女の姿が目にとまる。

 調査依頼は意外と求められることが多く、特にサポート職が輝く場として臨時パーティーが組まれやすい傾向があった。

 今見たパーティーも、戦闘に強いのは前を歩く戦士だけ。

 あとはシーフとして活動してそうなのが複数と、魔術対応のために普段なら冒険者をしていなさそうな研究職のような人間までいた。研究の傍らで小遣い稼ぎに来る人間も多いのが、こういった依頼の特徴かもしれない。


「そう考えると、Dランクってのはやっぱ、片手間のやつらと一緒か」

「きゅー」


 冒険者でプロと認められるのはCランクから。とはいえDランクって、平均的な兵士並みの戦闘力はあるはずなんだけどなぁ。

 スキルや目的によって都度状況が異なるからなんとも言えないが、少なくともソロで活動するならば最低限一般の兵士並の戦力は必要な要素の一つではあった。

 まあ嘆いても仕方ない。と、頭を切り替えた途端ふと気づく。


「ん?」

「きゅ?」

「いや、ビレナがいたってことはだぞ」

「きゅっ!」


 天然の洞窟を土魔法で整備して作った下水道を歩きながら考える。


「ここ、Sランクが対処に来る必要があるような│何か《・・》がいる可能性が高いってことじゃないのか?」

「きゅー!」


 なんでやる気を出すんだキュルケ。俺たちがそんな状況に巻き込まれても死ぬだけだろ。


「きゅっ! きゅっ!」

「そんなことないって? いや、んー……まぁあのギーランがBランクって聞くと、少しくらいは役に立てそうな気もしてくるけど」

「きゅきゅっ!」


 肩に乗って一休みするキュルケを撫でると満足げに頷いた。


「ま、調査はしっかりやろう。できれば異常の発見報酬も欲しい」


 ついでにEランククエスト、フクロネズミの駆除も行いたい。

 三匹持っていけば依頼達成。倒すのは全く問題ない。むしろ見つけるほうが大変な相手だった。

 下水道の臭いはまだそこまでひどくはない。消臭や衛生系の魔法装置がしっかり機能している証拠だ。

 本来の調査クエストというのはこういった異常がないかを確認するもの。調査に参加するだけで最低限の報酬は得られるが、発見した異常の内容に応じて追加報酬が得られるシステムだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る