行動指針

「ふふ。よし、ではご主人率いる我らの次の目標を告げよう」


 ベルが勿体つけて笑う。


「神国と王国に挟まれた森、エルフの住う不可侵地域があるな?」

「ああ……」

「さらに、今回新ダンジョンなどと銘打った邪龍の巣窟、あれらについて、どう考える?」

「どう考える、か」


 国王は被りを振ってトラリムを見た。

 トラリムは一呼吸のち、疑問に答える。


「エルフについては、緊急の事態がない限り我らが生きているうちに触れる予定はなかったな」


 とはいえすでにそのエルフの王族が王国まで降りてきていることがもう、緊急の事態ではある。ただエルフの寿命は長い。こちらの感覚で言えば普通は確かに、2.3世代はゆとりがある話だろう。


「邪龍だが……当然厳重に封印を施す。その際また神国、つまりお主らには借りをつくるが……頭が痛いな。どうです陛下? 一人くらい王女殿下を送っておいた方が良いのでは?」

「無論、そのつもりではあるがな」


 え? そうなの?


「いまはこちらに集中してください、ご主人さま」

「はい」


 リリィに意識を戻された。まあいい、なるようにしかならないよね?


「さて、疑問にはお答えできましたかな?」

「そうだな。だが」


 ベルがそこで言葉を切り、リリィが繋いだ。


「この二つの問題、我々が引き受けましょう」

「嫌な予感しかせん……」


 国王とトラリムが二人して顔をしかめるが気にせずリリィが続けた。


「まずティエラ。エルフの現女王です」

「やはり……」


 いやな予感的中といったところだろうか。これまでも薄々感じていたにせよ、女王であることが知れたらそれはそれで話が変わる。


「お二方への正式なお願いをと思います」

「……しかたあるまい……。聞こう」


 国王がティエラと向き合う。

 ティエラもその美しい容姿を存分に発揮しつつ、洗練された所作で言葉を繋いだ。


「どうかエルフの里を、共に焼き払いませんか?」

「「は?」」

「もののついでだ、あの邪龍もこちらでなんとかする代わり、手を出すでない」


 有無を言わさぬベルのオーラに王とトラリム以外の貴族はたじろぎ、腰を抜かした。


「聞かなければよかったの……」


 後悔先に立たずとはこのことだろう……。


「ほんとに焼き払うの?」

「ハイエルフ以外をうまく避難誘導できれば、ですが」

「なるほど……」


それが難しいという話だったよな。いまやどれだけのハイエルフが生まれたかわからないが、正面切って戦うより楽か。


「まあ、共犯者にしておけば王国から攻めいられる心配はありませんからね。そのためです」


 リリィいわく、ここでこう宣言したことによってエルフの件で消耗した神国、つまり俺たちに万が一侵攻を企てるものが出れば、王はそれを阻止する義務を負った。

 さらに事実上新ダンジョンの一つの利権を丸々押さえ込み、これだけで神国復興に必要な国家予算の目処がたったらしい。

 どう使うのかはわからないが……。


「ま、私たちはエルフの里を焼き払って、ハイエルフをボコボコにして、邪龍もテイムしちゃえばいいんでしょ?」

「簡単にいうとそうですね」


 ビレナの言葉にリリィが答え、国王以下が頭を抱える。


「私は必要になるまで神国に戻るぞ」

「面白そうだな、私もついていこう」


 バロンは向こうでもやることがあるらしい。ベルがついていくことにしていた。さっきの戦闘で仲良くなったのかもな?


「と、いうことで、念のため今の言葉、私の魔法で縛ってあるのでな、ゆめゆめ忘れるでないぞ」


 主に観客やこちらをなぜか睨む貴族に言い捨て、ベルとバロンは闇魔法のゲートに消える。


「何かあればフレーメルの家に」

「良かろう……もうこうなれば腹をくくるかの……次は南蛮の戦線にでも顔を出してくれ」


 国王の力ない願いを残し、俺たちはティエラの生み出す巨大樹に乗って上空へ飛び立った。

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