55 寿命
「やっぱりほとんど領民だなぁ……」
ギルから飛び出しそのまま上空から集団を観察したが、一部を除けばほとんどまともな装備も整っていない人間だった。
「不十分な術式ではあるが……間違いなく良からぬ形で生命のエネルギーを使っているな」
「このまま放置すると死が早まるわけか……」
飛べるリリィとベルは一緒に来ている。
黒い瘴気も異常だが、個人に目を向けても血走った眼や青筋の浮かぶ筋肉を見ると普通ではないことは一目瞭然だった。
「ベルちゃんの見立てで、聖属性魔法の解呪で何とかなると思いますか?」
「おそらく出来るが、使った分のエネルギーは戻らんな」
「闇魔法で対抗した場合は?」
「同じだ。聖属性の場合は正気に戻る。私がやればそれと同時に意識くらいは刈り取られるだろう」
聖属性が回復方面なのに対して闇属性をぶつけ合うのは言ってしまえば前からも後ろからも殴られたような形になるらしい。
当然その場合ダメージは避けられない。
「じゃあ私がやりますね。あとのことはビレナたちにうまくやってもらいましょう」
一番加減が出来なそうなんだけど仕方ないか……。
2人にはまだギルで移動してもらっていたので後ろをむいてギルの方に祈っておいた。
そうこうしているうちにリリィが祈りを捧げるように手を組み合わせて魔法を展開する。
眩い煌めきを放つ魔法陣がすでに20は展開されていた。
「ゾッとする魔力だな……天使というのは」
「何回見てもすごいな……」
ベルにとっては天敵でもあるリリィの魔力。3万人に一度に魔法をかけるなど普通に生きていればお目にかかる機会も無かっただろう。
それこそ吟遊詩人の語る誇張された救国の英雄の物語でしか触れることのない規模だった。
「ふぅ……」
リリィが息をついたと同時に展開された魔法陣から無数の光の筋が地上に降り注ぐ。
光を受けて群衆から瘴気が消えていくのが見えた。
「……? ここは?」
「何で俺たちこんなところに……」
亡者のように生気もなく歩いていた集団が徐々に正気に戻りだす。
当然混乱は起きているがここが森の入り口だったことが幸いした。
「ふふ……エルフの本領発揮と言ったところかしら」
ティエラがギルの上で手をかざすと、それに応えるように森中の木々が意思を持ったように蠢き出す。
「うわっ?!」
「何だこれ?! くそ! 取れねえ!」
中には冒険者やこれまでに兵役を経験した何人かはうまく木々の攻撃をかわして応戦している。
それを見たビレナが嬉々として乱戦に飛び込んでいった。
「私はやり過ぎた時のために残ります。ご主人さまはベルちゃんを連れて行ってください」
「わかった」
「うむ」
あちらは任せて大丈夫だろう。
リリィの極大魔法が発動したあたりで奥の方がざわついていた。ビハイドがいるとすればあそこだろうな。
「さて、どう収めるつもりだ? ご主人」
「俺が聞きたいくらいなんだけどな……」
「ふふ、お手並拝見だな」
ビハイドが何を考えてこんなタイミングで兵を出したのかを考える。
おそらく情報伝達のタイミング的に2度目のクーデターが成功したことがわかっての動き。キラエムとの繋がりを考えれば焦って動いてくるのもうなずける。
まだキラエムが生きていれば救出に成功することに意味はある。神国と隣接する地域を守る辺境伯家としてはつながりが深い人間に主導して貰ったほうが都合がいい
「ただなぁ、次の主導者、一応同じ王国民なんだからそのままでいいって考えるよなぁ。普通なら」
「あれだけのことをしておいて何を言うか」
「まあそりゃそうか」
一方であれだけのことをされていてまだ何とか出来ると思っているのも、なかなかのものだなと思いながらビハイドの元へ向かった。
「何も隠し種とか持ってなければいいけどなぁ」
「ご主人、それはフラグというやつだな? 最近覚えたぞ」
「勘弁してくれ……」
とはいえこのまま何もなしでスムーズに行くとは思えないなとは思いながら、ベルと先を急いだ。
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