48 精霊石
「ギルは途中までだね、危ないから」
「そうね。それよりあれはあるのかしら?」
「あ」
なんか必要なのか?
「ゴラ山脈って、何の準備もないと息もできないから」
「え……」
どんなとこに連れて行かれるんだ……。
「精霊魔法があれば大丈夫なんだけど、旦那さまとビレナは魔道具がないとね」
「魔道具か……」
どこかで買うのかと思っていたらどうもそうではないらしい。
「カゲロウちゃんとティエラがいるから任せちゃおっか」
「作れるのか?」
魔道具の生成ってかなり高等技術なんだが……いやまあエルフの女王なら不思議じゃないか。
「と、いうことでカゲロウちゃんを出してください!」
「ああ……」
言われるがままにカゲロウを召喚する。
光に包まれて顕現するカゲロウは神々しさがあるが、出てくるなり擦り寄ってくるのが可愛い。
「この子……すごいわね」
「そうなのか?」
カゲロウを見たティエラが驚いた声をあげた。
「ええ、エルフって精霊との交渉を得意としているんだけど、この子との交渉は普通なら難航するわ」
とはいえカゲロウは出てくるなり腕にすり寄ってきているのでもはやただのペットだ。まぁ戦ったときは死ぬかと思ったけど。
なんとも言えないところだな。
「ふふ。旦那さまの力ね。さて、ちょっと手伝ってもらえるかしら」
「キュクー?」
俺に伺いを立てるように首をかしげたので頷いて送り出してやる。
「じゃ、行くわ」
「キュクー!」
ティエラが何かを唱えるとカゲロウの炎がゆらめきはじめる。
「キュククー」
カゲロウが気持ちよさそうに目を細めて鳴くと、炎が分離するようにいくつかの結晶になった。
「これは……?」
「上位の精霊は下位の精霊を操れる。これはその力を込めた魔道具。ゴラ山脈みたいなところに行くときはこれを身に着けておくの」
「そんなものがあったのか……」
Cランク冒険者には無用の長物なので知りもしなかったが、上位の冒険者はフィールドが過酷になっていくので必需品の一つらしい。
逆にこれがあれば海の中でも空を飛びすぎたときでも呼吸の支援ができたり、寒さや暑さへの対応などもできるという。なんでも周囲にいる形のない下位の精霊を無意識に従えることでそれを実現しているらしいが、まあ持ってれば安心の便利アイテムという認識をしておいた。
「ありがとねー!」
精霊石とよばれる結晶。ビレナも当然持っていたんだがカゲロウの精霊としての格に比べれば見劣りするものしかなかったらしく今回一緒に作ってもらっていたらしい。
「旦那さまは精霊憑依が完璧になればこれも必要ないのだけど」
「まだ不安定だからなぁ」
「キュクゥ……」
俺がそういうとカゲロウが申し訳無さそうにうなだれた。間違いなくカゲロウではなく俺に原因があるんだけどな……。
「ま、今回嫌でも練習になるから」
「そうね。このメンバーでやり合うのだから」
「ふふ。ご主人、手加減はせぬぞ」
「もうちょっとハンデとか――」
「じゃ、いこっかー!」
俺の声はビレナの掛け声に虚しくもかき消されていった。
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