47 勝負のついで

 声をかけてきた男は見たところAランクで実力も有る冒険者のようだった。周りにいる人間たちもそれぞれBランクを越えていて自信があるらしい。


「んー、勝負にならないと思うけど……」

「いやいやそりゃハンデくらい上げるってば」


ビレナの言葉を勘違いしたらしく男が饒舌に喋る。


「てかさ、田舎者っぽいけどさ、まさか俺たちのこと、知らないわけ?」

「知らないねー」


 ビレナが明るく言い放つと一瞬嫌そうに顔を歪めたが気を取り直したのかまた笑顔で続けた。


「俺たちは白花の英雄っていうクランを組んでるわけ。聞いたこと有るでしょ? 今回もさ、神国がやばいっていうからしっかり助けに来ちゃったわけよ。いまこうして普通にみんなが冒険者活動できてるのも俺たちのおかげなわけ」

「はぁ……」


 クランか。パーティーよりも規模が大きい集団を指し、それぞれクランごとにあらゆる協力関係を敷いて冒険に挑んでいるらしい。クランもギルドに申請すればランク付けをできたはずだ。

 ただ神国を助ける意識があったのであれば、せめて情報収集くらいしておくべきだっただろう。リリィの呼び掛けの中に俺の名前もあったはずだしなぁ……。


「と、いうわけでさ、俺たちと勝負、しない?」

「私達になにかメリットはあるのかしら……?」


 相手する気のなくなったビレナに変わってティエラが答えた。


「そりゃもちろん、俺たちを自由にできるんだぜ? Aランククランのメンバーに勝ったとなれば箔もつくっしょ?」


 ティエラが考える仕草をすると何かを勘違いしたようで男がティエラの肩に手を触れようとする。あっさりかわされて驚いた顔をした男だったがティエラの言葉で気を取り直した。


「いいわ。やりましょう」

「そうこなくっちゃ! どうする? チーム戦でいい? ハンデとかいる?」


 意外に思っているとティエラが顔を寄せてきて小声でいった。


「彼らがAランククランなのは間違いないから。箔がつくというのは確かにそうなの」

「それはそうなんだろうけど……」

「これはね、ギルドに対しても効くのよ」

「そうなのか?」


 これまでまともな実績のない俺たちにとってAランククランとの非公認とはいえ勝負事というのはギルドも無視できない話になるということらしい。昇格の判定に影響するとか。

 そんな説明をティエラから受けている間にビレナが面倒になったようで声をあげていた。


「もう面倒だからさ、そっちのクラン全員の合計数でいいよ?」

「へえ。人数は気にしないと。それと君たち全員で勝負ってことかな?」

「ん? いや、私達は個人だよ?」

「は?」


 噛み合わない。


「そっちは全員。負けたらいう事聞いてもらうとして、こっちはチーム組む必要もなさそうだし」

「そうね。私もそれでいいわ」

「何かようわからんが私もまぁいいだろう」


 完全に男たちは馬鹿にされた格好になる。


「へぇ……まあいいや。あとで泣いて謝ってもらうのもさ。な? お前ら」


 下卑た笑みを浮かべて男たちがうなずく。周囲にいたのは15人。Aランク相当にみえるのが3〜5人。あとはBランクがほとんどだ。たしかにその辺にいれば間違いなく強い。15人のBランク冒険者というのは国家戦力に相当するといっても過言ではない。

 彼らの言った神国を助けに来たという話も、あながち馬鹿にできない規模ではあった。


「リントくんも負けちゃダメだよー? あとあれと私達の勝負は別だからね!」


 ということらしい。もう今さらどうしようもないので頷いておいた。

 俺が負けてもあいつらの表情を見る限りそんな大変なことにはならないだろう。そして3人の心配は言うまでもなくする必要のないことだ。


 俺が心配するべきは――。


「まじでこのメンバーにハンデなしなの?」

「大丈夫大丈夫〜!」

「お手柔らかにお願いしますね、旦那さま」

「むしろ傷つけず集めるのはご主人のほうが得意だろうに」


 この中の1位の言うことを聞かされるわけだ。願わくば無茶振りの可能性の低そうなティエラあたりが勝ってくれることを祈るしかないだろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る