34 新戦力
「リントくん、Bランクにあげちゃう?」
「え?」
Bランク……?
ビレナたちのせいで感覚がおかしくなりつつあるが、Bランクって冒険者の中でもいわゆる勝ち組、将来も安泰の地位だ。何なら俺、Dランクになれただけでも結構頑張ったなと思っていたのにあっという間にCランクにあがって実感がなかったところだというのに……。
「いいねー! 神国行く途中にどうせ魔物は出るし」
「なるほど……道中であげられるのであれば良いかもしれんな」
比較的常識のあるバロンもこのあたりの感覚は向こう側だ。
ミラさんを見るが「私は何も聞いてません」のポーズを取っているのでだめそう。
「パーティーリーダーのランクがパーティーのランクに大きく影響しちゃうからね。どっちにしても上げるなら、ついでにあげちゃわない?」
「それにご主人さま、実はかなり強くなってますよ……?」
バロンを圧倒しちゃうくらい、とリリィが茶化すがバロンが真面目に頷いた。
「正直、アレだけの力があってCランクというのは詐欺もいいところだ。さっさとコイツらと同じランクにあげてしまえと思う」
「ほらほら、珍しくバロンもそう言ってるし」
なるほど……。バロンはこのメンバーにいると忘れそうになるがSランク相当の実力者。それだけの人物が言うなら、少し、考えても良いかも知れないと思えてしまう。
ただこいつらと同じ、というのはやりすぎだ。Sランクって大陸に10人もいないはず……例外なく歴史に名を残す人物だ。すでにバロンやリリィは大陸中に名を轟かせているし。
「カゲロウ抜きでもBランク相当の力はあるんじゃないかなー?」
「いや、カゲロウ抜きじゃ俺ろくに戦えなくないか……?」
「あれ? テイマーって従魔の強さがある程度還元されますよね?」
「そうだけどあれは微々たる……あ……」
そうだった……。
テイマーはテイムした魔獣の強さに応じてわずかながら自分の能力も強化されるという特徴がある。
「これだけの面々を従えたテイマーは、歴史上でも稀だろうな」
それもそうだろう……。
テイマー自身の能力強化は、竜1匹をテイムして初めて「少し変わったかな?」と思える程度のもの。そもそも竜なんかテイムできるテイマーは強さに困ってないし、微々たる効果過ぎてすっかり忘れていた。
だが今の俺のテイムしてる面々を思い返すとこの効果、かなり馬鹿にできないものになっているのではないだろうか。
「私、リリィ、バロン、カゲロウちゃんだけでSランク4だねぇ」
「ギルもご主人さまのテイムの効果で力が伸びてるし、実質Sランクでいいんじゃない?」
Sランクの大安売りである。大陸の半分のSランクが集まってるのではないだろうか……。大丈夫かこれ。
「待て、何だそのテイムの効果で力が伸びるというのは」
「あれ? バロン、知らなかった?」
そういうとビレナが角を生やした。
「これ、テイムしてもらって初めて出来たんだよね」
「なんだと……」
「私も天使化出来るようになりましたよ?」
「は……?」
バロンが口をあける。そうか、そういえばバロンはこの話知らずにテイムされたのか。
「バロンは何か変化はないのか?」
「いや……流石にそんな身体に変化はないが……最近確かに身体は軽くなった気はしていた……」
まさか……そんなことが……と小声でブツブツ言い始めるバロン。
「あ、バロンってダークエルフですよね?」
「どうしてそれをっ!?」
「え、隠してたつもりだとしたらポンコツすぎませんか?」
「くっ……うるさい! これまでは鎧を取ることもなかったんだ!」
今や見る影もない防御0のメイド服の褐色娘が何をいっても、という状況ではある。でも隠すつもりあったんだな……。なんでか知らないけど。
「ダークエルフならなんだというのだ」
「精霊魔法の適性と闇魔法の適性が共存するダークエルフならではのスキル、ありますよね」
「あれは……しかし……」
「あー! 悪魔をよべるやつ!」
バロンが戸惑うのも無理はない。
失敗すればビハイド辺境伯がやらかしたスタンピードなど目ではない大災害をもたらす。
「悪魔召喚……」
「ま、みてる限りまだバロンだと難しいですかね」
「ふん……」
挑発にも乗らないということはそういうことなのか、よほどリスクを恐れているかだな。
俺も悪魔召喚の知識はかじっているが普通の神経でやろうと思えるスキルではない。
文字通り魔族の中でも悪に属する封印された存在を召喚するスキル。悪魔は基本的にいまの地上の生物で勝てる相手ではない。そのため出現直後のまだ力が弱い間に契約で縛るのが普通だが、それに失敗すれば地上に魔王が生まれ、少なく見積もって大陸の三分の一は支配下に置かれるだろう。
悪魔を倒せるのは尋常でない力を秘めた勇者や聖属性を極めた……あれ?
「リリィがいたらなんとかなっちゃうんだよねぇ」
「あと、ご主人さまのテイムも普通の契約より早くて有効ですね」
2人はいつもどおり乗り気だ。というよりこの2人なら魔王くらいサクッと倒してきてもおかしくはない……。
そしてこの2人に一番感覚が近いバロンが共鳴してしまう。
「ふむ……やるか?」
「できるんですか?」
「さあな。だがいまならできる気はする」
バロンが両手を広げると部屋を埋め尽くす多重魔法陣が幾重にも生み出された。
「おお。これは正直驚きましたね……こんなことまでできたんですね、バロン」
「お前らといると自分でも忘れそうになるがな、私もそれなりのものだぞ?」
「ふふ、知ってますよ。バロンが強いことは、誰よりも」
「ふん……」
リリィとバロンの間にはなにか、長年培った何かがあるのかもしれない。
バロンが目を閉じて集中すると魔法陣がきらめき出す。ただしその光はほとんどが紫を中心としたドロドロとした印象を与えるものだ。これは闇魔法の特徴になっている。
「ぐっ……」
「無理に多重展開しすぎたんじゃないですか?」
リリィが手をかざすと少し表情が和らぐ。
その間にも部屋を覆い尽くす魔法陣はどんどんその光を大きくしていき、ついに部屋の中心から禍々しい黒い何かが生み出されたように現れた。
「ご主人さま、いまのうちに」
「いいのか?」
本来この力はバロンのもの、だというのに俺がテイムするのは横取りのように感じてしまう。だがバロンは早くしろと目で訴えかけてきた。
「召喚に全部の魔力注ぎ込んでいますから。もともとご主人さまに捧げるつもりですよ、バロンは」
「そう……なのか?」
バロンを見ると露骨に顔をそらされる。なるほど、そういうことなら遠慮なく行こう。
「テイム」
「なに?!」
黒い塊が驚いて声を上げたがもう遅い。すでにテイムは完了し、俺たちに危害を加えることはできなくなっていた。
「え? え? まだ認識すら出来てなかったはずだろう?! 何事だ?!」
紫のモヤが晴れ、黒い塊が人型にかたどられていく。
「わー、可愛い子だねぇ」
「うげっ……何なんだこいつら……」
悪魔をして何なんだと言われるビレナたち……。
「こんな見た目でも悪魔ってことは300年くらい生きてるんだよねー?」
「うるさいっ! 何だお前!? 私はもう800年生きてるわ! そんなガキと一緒にするな!」
「だが見た目はガキそのものだな……」
「うるさいわ! ばーか! ばーか!」
召喚された悪魔は見た目が完全に子供のそれだった。顔や体付きは子どもなのに、服装は魔族特有の激しい露出があるのでギャップがすごい。
黒い謎の材質が服として身体を覆ってはいるが、その範囲は最低限股間と胸を覆うだけ。衣装の一環なのかタトゥーのような模様が目元やお腹に入っていてこう……端的に言うとエロかった。
「リントくん、守備範囲?」
「まぁ……」
「言葉にはなってないけど、かなり見てますよね」
「ほんとに……この点だけはすでにこの2人に勝るものがあるな……」
嬉しくない褒め言葉だった。
「なんだぁ!? お前ら! 私はこれでも7大悪魔の1柱――わっ、やめ……ちょっと?!」
「あ、これ簡単に脱げるんですね!」
「やーめーてー!」
涙目のロリっ子悪魔に襲いかかる聖女……どんな図だ……。
「おい! お前がご主人だろ!? もうそれは諦めるからこいつから助けろ!」
「ふふふ、助けてほしい割に頭が高いなぁ」
「くっ……お願いします、助けてください……」
「ところがどっこい、私のご主人さまもあの人なんです! 仲良くなろうねー!」
「どんな理屈だっ!? あっ、そこはだめっ……もうっ! なんなのだぁぁぁあああああ」
結局混ざってやりました。
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