メイド

 リリィが建てたうちの新居は地下に牢まで作っていたらしい。

 教皇はそちらにツッコまれている。


「2人きりですね、ご主人さま」


 ビレナは俺たちが教皇の対応をしている間に「ちょっとまってて」と家を飛び出した。

 バロンはしぶしぶあの格好のまま外に行った。ただし人に会うのは避けるために目にも留まらぬ速さで森に飛び込んだ。食材さえ手に入ればいいという意味では間違った選択ではない。


「えっと……」


 3階建てになった我が家の中央に位置する巨大な寝室でリリィと2人……。身の危険を感じざるを得ない。

 天蓋付きのベッドに座りこちらへしなだれかかってきている。大きなものがあたってるのはいつもなんだが……感触が柔らかすぎる。


「脱がないでくれ……」

「ふふ。たしかにいまやるとビレナに怒られちゃいますね」


 意外とあっさり服を直してもらったことに驚いていたがちょうどよくビレナが戻ってきた。多分リリィはわかってたな。

 ビレナは寝室の窓から猛スピードで突っ込んできた。せっかく立派な玄関があっても使う人間は少ないかもしれない……。


「おかえり、あれ? そっちは?」

「ん? あ、起きてー!」


 ビレナに手を握られた人物は、見覚えのある美女。


「ギルドの制服……?」

「ミラさんか……」


 リリィのヒールを受けて意識を取り戻したミラさん。


「ここは……?」

「ここが職場です!」

「は、はぁ……」


 部屋を見渡すミラさん。

 巨大なベッド、豪華なシャンデリア、なぜか部屋の中にある外から丸見えのシャワールーム……。異様な光景に事態が飲み込めていない様子だった。


「ビレナ、流石に勝手にギルド受付嬢連れてきちゃダメじゃないか……?」

「ん? この子自分で来たいって行ったよ」

「そうなのか……?」


 ミラさんを見ると仕方なくとかしぶしぶという言葉が表情にありありと映った。まあなんか、脅された感じはある。


「3倍の給与で仕事をくれるというから頷いたのだけど、そこから記憶がないです……」


 次の瞬間にはビレナが手を引いて超スピードで移動してきたんだろう。心中お察ししますという感じだった。


「条件はいったとおりです。リントくんにテイムされること、リントくんを受け入れること、リントくんの家をしっかり管理すること」

「テイムも家の管理もいいのだけど、受け入れるって……」

「別に俺もそれはいいぞ?」

「あれ? リントくん、好みじゃない?」


 ビレナの言葉にピクッとミラさんが動く。


「ま、好みじゃなくても抱けるよね? あ、抱くのも嫌なくらい好みじゃない?」


 ビレナの露骨な挑発に乗ってしまうミラさん。


「ふーん……。私の魅力がわからないの……残念ね、まだお子様なのかしら」

「ま、胸もリリィほどないし、スタイルは私ほど良くないし、髪がきれいなバロンも経験しちゃったし、3人と比べたら大したことないもんねぇ」

「なっ?!」


 顔を赤くするミラさん。だがビレナとリリィを見て言葉を継げなくなっていた。


「まぁまぁ、それ以外がいいなら別に俺は――」

「やるわ」

「え?」

「私の魅力はこんな小娘たちにないテクニックよ! 覚悟しなさい!」

「ええ?!」


 ミラさんが俺を押し倒すように乗ってくる。


「まずはテイムね」

「その間にお着替えもしましょうか」


 と思ったら2人に引き剥がされて先程バロンを苦しめたメイド服を渡されるミラさん。

 切れ長のきれいな目がものすごく嫌なものを見る顔になる。


「これ……布でしかないわよね?」

「服なんて全部布だからー」


 それはそうだけどな、もう少しなんか……まぁビレナに何を言っても無駄だな。


「ご主人さま、テイムテイム」

「いいのか?」

「ええ……本当にしっかり稼げるなら」


 まぁギルドの3倍は大きいよなぁ。本人がいいならいいか。

 テイムを行うにあたって改めてミラさんと目を合わせる。


 鋭い目つきといえばそうだが、切れ長の目元には泣きぼくろもありパッと見て美人だなと思わせる魅力があった。ショートの髪はふわふわ柔らかそうに巻かれている。身長はビレナとリリィよりは高い。バロンほどはなかった。

 うん、今までにないタイプかも知れない。


「さあ、これでいいわけ?!」

「これはこれは……」

「いいねえ、エッチな身体してるねえ」


 おっさんな2人に絡まれるミラさんが顔を真赤にしている。露出はすごい。

 ギルドの制服の清楚な印象と一転してとても刺激的だった。


「で、どうなの! やるの! やらないの?!」


 やりました。


 ◇


「あんなこと言ってたのにすぐひぃひぃ言い出して、可愛らしいですね?」

「くっ……」

「ふふふー。かわいいかわいい」

「はぅっ?! や、やめて……いま触らな……んっ……いで」


 俺より2人のお気に召したようだった。

 こうしてバカでかいうちの管理を行うメイドが誕生した。

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