2649年某日 アルビオ連邦 「tuning:復讐者 ソマ」
西統紀元1989年、アルビオ連邦・ヴェスプティア連合軍(フルグ共和國も含む)はエーステライヒに勝利した。
戦死者・行方不明者は民間人を含めると1,330万人と言われる。
その内、オーダーメイド・チュニックによる死亡者は およそ250万人。
そして戦後の統計によると、その12倍の後遺症患者が生まれたという。
戦後、人権活動団体や当時の議会内部の一部議員らにより、開発者やその薬剤を散布した衛生・化学兵は人道に
軍刑務所に収監される者、市民からの苛烈な弾圧により自死を選ぶ復員兵が続出。
しかし、アルビオ政府からは衛生・化学兵らに対する恩賞や退役後の年金が支給されることはなかった。
終戦から6年後、ウェストフォレスター議事堂にて・・・。
「おおケイレヴ様、本日は快晴!最高の日和ですなぁ・・・最近はいかがお過ごしか?」
「ええ・・・おかげ様で壮健でございます。今日は陽射しが少し眩しいような気もいたしますが、日頃の運動不足解消にこの後散歩でもしてみようかと考えております」
「おお!それはいい!私もご一緒出来ればとも思いましたが、あいにく暮れ合いにはここを発ってしまわねばなりません」
「おや・・・それは残念」
アルビオ連邦の中央議会が開かれる中、連邦議会議員:シャトー=ケイレヴことソマ=リュオンはスタンリー総督:ジェイコブ・S・コールマンからの辞儀に対して、彼は
「スタンリーに・・・向かわれるのですか?」
「ええ!別邸で会食をせねばならんのですよ。相手は
「それはご心労・・・お察しいたします」
「いえいえ!これも公務ですから。では、失礼いたします」
「スタンリーの別邸か・・・」
議員は懐から通信端末を取り出すと、それを耳元にあてて素早く、しかし明瞭に話をし始めた。
「元東部戦線の指揮官、ジェイコブ・S・コールマンと接触。”例のブツ”を準備しておいてくれ・・・・」
彼はシャツの胸ポケットに端末をしまうと、その手で背広の内ポケットから一枚の写真を取り出し呟いた。
「アリシア・・・報いは必ず」
細く、そして長く息を吐いた後写真を再びポケットに戻すと、左の手袋をゆっくりと外す。
剥き出しとなった、その手は黒光りする金属によって構成されていた。
オーダーメイド・チュニックは、エーステライヒ兵士や國民・國境地帯の人々の命を次々と奪っていった。(國境地帯の住人は混血であることが多かったため)
彼の想い人であったアリシアも例外ではなく、彼は悲嘆に暮れることとなる。
しかし、彼に降りかかった不運はそれだけではなかった。
オーダーメイド・チュニックに不凍化効果のあるものなど、添加された薬剤の中には、人種に関係なく作用する物質も含まれていた。
長期間薬剤に曝されていた彼の左手は壊死してしまっていたのだ。
恋人、自らの左手、そして理不尽な理由から自死を選んでいった兵士たち。
その全ての”決着”をつける、それがソマ=リュオン改めシャトー=ケイレヴが凶行を行う動機となったのだった。
※西統紀元1989年=煌暦2649年
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます