2634年某日 フルグ・エーステライヒ国境 アルグィン 「ソマの左手④」

 「前方、エーステライヒ機甲部隊!編成アーチャー(塹壕装甲車)75、グレイル(歩兵戦闘車)80!距離1200」


「了解、連合歩兵部隊と共同し遅滞戦闘を展開する」

「中佐!彼我の戦力においてはこちらにがあります。対空電探レーダーに反応なし。航空優勢の今、各航空部隊へ近接支援を要請すべきです」


「よし、ではヴェ軍(ヴェスプティア)に電文送れ・・・ワレ セントウカイシ キホウラノヨウイハイカン・・・・始め」

「・・・了解、(我 戦闘開始、貴方らの用意は如何・・・)」

通信特技兵は、アルビオ連邦前線司令部(國境アルグィンから45キロの地点)からの電文を一字ずつ暗号に直して送信する。


「周波数よし、本日の暗号表は・・・G-65。」

手元にあるカーボン紙を驚くべき速さでめくりながら、記載されている乱数列を文字盤(身の丈ほどの高さがある機械に繋がれた)に打ち込んでいく。


これはアルビオ連邦―ヴェスプティア間で使用された原始的な乱数暗号であった。

複写の用紙に無作為デタラメな数字を書き込み、それを正本・控えに分けそれぞれが保管する。

その数字を基に互いに電文を送りあい、文字に変換し意思疎通を行っていたのである。

暗号表となる用紙は大量に作成されており、いつ・どの用紙を使用するかは事前に打ち合わせされていた。


「返答来ました、(イマダ カノセンリョク ハンゼントセズ ワレキニオウズ)・・・」

「なにぃ!今叩かずしていつ叩くのかァッ!!」

「中佐!声を荒らげてはなりませんッ!」


部下の発言を受け、”中佐”は深呼吸をしながら襟を正す。


「致し方ない・・・我らだけでも・・・反転攻勢ッ!各々の火力を”発揮”せよッ!」


”中佐”の一声により、戦闘要員は直接・間接火力を”発揮”する。

榴弾砲、大口径迫撃砲、対装甲誘導噴進弾チョップスティックスや汎用機関銃が一斉に火を噴き、土煙でエーステライヒ軍の姿は見えなくなる。


「これでやっこさんも消し飛んだだろ・・・・・」

皆がそう考えたその時・・・


「・・・あっあれはっ」

アルビオ兵の一人が声を挙げる。


舞い上がった粒子の幕から、不気味な輪郭シルエットが現れる。

「”蛇”だ・・・・・・・・」


蛇、すなわち神話世界の住人。ホモ=サピエンス=サーペンテスは体長3メートル50センチ、皮膚は7ミリ機銃に耐え、前肢の汗腺から毒を放出することができる(これが”蛇”と呼ばれる所以ゆえんである)


また、その膂力りょりょくと瞬発力はヒトのそれからはかけ離れており、神話の時代においてはヒトは”蛇”を畏怖の対象としていた。

エーステライヒは数千年の眠りから目覚めた”蛇”を巧みに自陣営に引き込み、最新鋭の装甲服と重火器(機関”砲”や誘導弾)を装備した”蛇”部隊を秘密裏に組織していた。

そして、国土全体に張り巡らされたトンネル網を通してそれらを輸送していたのである。


・・・ものの10分でアルビオ連邦の陣地は蹂躙された。



◆――――――――――――――――◇―――――――――――――――――◆


”蛇”足チェックポイント!:ホモ=サピエンス=サーペンテスは古代文明において、安全保障の柱として重用されていた。各都市國家は、”蛇”に衣食住は勿論、供物を捧げることを対価として、戦争に”蛇”を駆り出すことに苦心した。

結果として、巨大な経済圏を形成した都市が最も”蛇”を「食客」として迎えることが出来たとされる。

その中で軍拡と同時に経済成長を果たした、当時最も有力であった3大都市間の争いにより、古代文明は荒廃、その後数百年に渡り記録文書の残っていない”暗黒時代”に突入した。


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