2619年某日 アルビオ連邦 「ソマの左手」

ソマ=リュオンはアルビオ連邦、リヴァプールに生を受けた。

父はにて湾岸の軍事基地に勤務、母は紡績工場に勤め彼を養った。


「坊や、サッシュメルツ(穀物を堅く焼いた菓子)食べるかい?」

「おばちゃん、いいのかい。それ売り物だろう?」


「ん~、勿論 金はもらうよ!」

「ケッ!このケチンボ!あまり業突張ごうつくばりだと煉獄落ちちまうぜ~」

「こんのクソガキャァァ!」


・・・このように初等学校の講義が終わった後は、港近くの店で父を待ちながら暇をつぶすのが彼の日課であった。



特段不自由もなく育ったソマであったが、ある時転機が訪れる。

ある日、地区に一台しかない電映機テレビジョンの周囲には港湾労働者たちが群がっていた。

中央の椅子に座るソマは、少し冷えた菓子を頬張りながら男衆と談笑していた。


(始まるぞ・・・ナイスハロルド放送・・・)


””みなさん・・・本日は予定を変更いたしまして・・政府・・軍作戦本部より臨時速報を御送りします・・・””


「あれ、ナイスハロルド放送!ナイスハロルド放送じゃないよ!」

「坊主、ちぃと静かにしときな・・・」


普段流れてくる娯楽番組が流れないことにソマ少年はイラつきを覚える。


””我が國は、長年欧州一円の安定を支えるべく不断の努力を続けてまいりました・・・フルグ共和國・エーステライヒ帝國間のエルヌス=ローレンスを巡る係争において我々の果たした役割、そして成果についても、異議を唱えるものはいないでしょう・・・””


「お話が長いよお~」

少年には國のまつりごとを理解することができなかった。

しかし、次の一文が読み上げられたとき”それ”が好ましくないことであることは、大人たちの動揺から察することができたのだった。


”我がアルビオ連邦は、数々の挑発的な行為に対し懲罰的措置を執り…ここに本邦及びエーステライヒ帝國との間に紛争状態があることを宣言いたします””


ソマ=リュオン 齢9の夏の出来事であった。















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