TS風邪

城弾

A型

 冬。空気が乾き風邪をひきやすくなる時期。

 オレ、釜須真吾かます しんごは隣家の扉を勝手に開けて上がる。

 出迎えはないが関係なしで中に入る。


「具合はどうだ?」

 オレはスーパーの袋を手にある一室に入る。

 中身はねぎと卵。それから薬局で風邪薬と栄養剤も買ってある。

「真吾か……だるい……」

 死にそうな声でベッドに伏せる男。日瀬海太ひぜ かいたは言う。

「海太が風邪ひいてからさもう三日だもんな。医者には行ったのか?」

「来てもらったんだが……」

 海太の返事は歯切れが悪い。

「何だよ。実は不治の病とかじゃないだろうな」

「まだそっちの方がましかもしれない……」


「それより真吾。帰った方がいいぞ。うつったら」

「こんな瀕死の病人おいて帰れるかよ」

 こいつもオレも一人息子。

 そしてこいつの両親は海外出張中だった。出迎えがないのはそういうこと。

 だから昔から親交のあるうちに世話を任されていた。

「待ってろ。おかゆ作ってやる。ホントは女の子に世話してもらいたいところだろうが、贅沢は言うなよ」

「いいから帰ってくれ。大変なことになる」

 なんか無理やり俺を追っ払おうとしているのを無視して、台所に向かう。


 栄養剤を飲ませて、それから食欲がない海太に無理やり食わせた。

 とにかく栄養つけないとな。


 薬を飲み、落ち着いたところで次は寝汗だ。

「体拭くぞ」

 返事も待たずにオレは海太のパジャマの前をはだけさせる。

 体が弱っているせいか、妙に筋肉が弱々しいな。

 この胸板なんてぷにぷにで……ええええっ?

 いきなりその胸が膨らんできた。

 反対に腹回り。ウエストがくびれてまるで女の……

 急に甘ったるい匂いがしてきた。これも女の匂いか?

 苦しげな声をあげてどんどんと海太が変貌していく。

 肌が見る見るうちに白くなり、短髪が背中にかかる長さの髪に。


 十分もしたら、すっかり美少女になっていた。


 オレと海太は同じ高校の同級生。

 それ以前に家が隣同士で、幼いころから兄弟同然に育ってきた仲だ。

 何度か一緒に風呂も入っているが、ちゃんと男のシンボルはついてたはずだが。


「あー。あの医者の言うとおりだった。ホントに女になっちまった」

 声まで可愛らしいものに。

 例えるなら恋多き人魚?

 いや。むしろ歴史好きの腐女子?

 むしろツインテール属性の幼女か?……て、それよりもこいつの体!!

「何冷静に分析してるんだよ……待て? 『医者の言う通り』? 前例があるってことか?」

「んー。なんかそうらしい」

 風邪ひきだけにややかすれた声でけだるく言う。

 あ、わかった。冷静なんじゃなくて、熱でやられていろいろ鈍っているんだ。

 もしかすると夢で見ている感覚かもしれない。

 目がとろんとして頬も赤く……やべえ。海太のはずなのにめちゃくちゃ色っぽい。

 なんてこった。ギンギンに反応しちまっている。くっ。鎮まれ。オレの股間。


「なんでこうなるんだ?」

「理屈は分からないけど変身以外は普通の風邪と同じみたい。薬はさすがに市販のじゃだめだけど、医者にもらったものなら」

 なんだか口調が柔らかいな?

 女の声のせいかな?

「だからもう大丈夫なんで帰って」

「バカ言うな。病人の上に女になったんじゃ危ないから、俺がついててやる」

「それじゃ逆に困るのよぉ」

 のよ? 女の声だからか違和感なくてスルー仕掛けたけど、今確かに女言葉で?

 それよりとにかくオレは付き添うことにした。

 帰そうとする海太も、薬が効いたか眠くなってきたらしい。黙り込む。


 二時間くらいしたころだろうか。

 海太が喘ぎだした。

 くっ。また無駄にいろっぽい。変な気になりそうだ。

「どうした。海太?」

 ベッドに駆け寄ると海太は妖艶にほほ笑む。

「ねぇ。真吾。この風邪にはがあるの」

「何だ? そんなものがあるのか?」

「ええ。あなたのミ・ル・ク」

 ミルク? 男のオレが乳を出せるはずが。

 それにこいつ。今完全に女言葉だったが。

「それをちょうだい」

 いうなり海太は俺にキスしてきた。

「男とキスなんて」という嫌悪感より、その唇や胸の柔らかさに一瞬でオレの「男」が燃え上がる。

 だめだ。こいつは男。

 しかし悲しいかな、そのまま最後までやってしまった。


 まさか初体験が男相手なんて……


「ごめんねぉ。でもたぶんこれで明日には治っているから」

「どういうことだよ?」

「これ見てくれる?」

 海太は自身のパソコンであるページを出して、それをオレに見せる。

 どうやらこの『TS風邪』の関連ページらしい。

 そしてそれをかいつまんで読むと「特効薬』について書かれていた。

 いや。治療法というべきか。

 それは『男とやること』。


 そもそものこのTS風邪。

 重症になると精神的にも女性化。そして「雌化」するらしい。

 あの言葉遣いの変化はそういうことか。


 それで付添いの男とやっちゃったら、翌朝には戻っていたと。

「な、なんてばかばかしい病気だ」

「だから帰れって言ったのよ」

「先に言われていたら逃げてたわ」

「うふふふ。ところで、一度破った禁忌。もう一度しない?」

 うわ。淫乱になってる。

 確かに気持ちよかったし。

 もう一度くらいなら。


 結局、足腰立たなくなるまで搾り取られた。











 三日後。

「調子はどうだ?」

 すっかり元気になった海太が見舞いに来た。

 もちろん男の姿。

「最悪よ」

「あたし」は布団にふせったまかすれた声で言う。

「まったく。看病したのはいいが風邪もらうなんて、なんてお約束な奴だ」

「うるさいわね。こんなことなら見捨てていたわよっ」

 きっちりあたしはTS風邪をうつされて女体化していた。

 言葉からわかると思うけど、精神面まで女性化してきている。

「だから帰れって言ったんだよ。ま、治してくれたお返しに今度は俺が特効薬をと思ってね」

「じょ、冗談じゃないわ。こんな体と言葉遣いだけど、心は男なのよ。誰が男となんて」

 微笑みながら海太はうなずくだけ。

 くっそー。身をもって熟知しているというわけね。


 あたしは追い返す気力もないまま苦しんでいた。

 海太は氷やタオルを代えてくれる。

 一度かかって免疫が出来ているとはいえど、平然とやってのけるあたり、男らしいわ。

 ほれちゃいそう……今のなし。拙い。そろそろ頭の中身が。


 しかし抵抗空しく。

 完全に頭の中がやられた。

 無駄に色っぽい声であたしはいう。


「ねぇ。ぷっといお注射、あたしにさして」

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