田中カメレオン

作者 秋冬遥夏

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★★★ Excellent!!!

冒頭、多分に魅力を感じさせるストーリーとその発想に舌を巻き、そのファンタジックな物語に呑み込まれました。練られた構想は同じ高校生として素直な称賛に値するものです。

しかし、この作品の真に評価すべき所はファンタジーを通して秀逸な人間ドラマを描いているところにあるのです。

一見して、抜群のエンタメ性を誇るように思える『キメラ人』という存在。

誰しもが一度は思い描いたであろう「鳥になりたい」だとか「猫は自由そうでいいな」とかそういった願望が実現可能となり、それが日常へと昇華された未来といった設定から想定されるのはだからこそ生じた問題点であることでしょう。

例えば、肉食獣のキメラ人に焦点を当てみて、キメラ人という存在(被捕食者である草食獣のキメラ人)が当たり前となったからこそ肉を食べられなくなるだとか、逆に草食獣のキメラ人であれば肉食獣に対する本能的恐怖であったり、シンプルな生体的構造異常など、この世界であれば、その世界ならではの問題を取り上げるというのも一つの手であり、実際に学生の多くが現実ではあり得ないことを取り扱いたくて、異世界を作り上げる筈なのです。

でも、そこを現実に住む我々も共感できるレベルに落とし込んでいる所が非常に面白い。

主人公である田中カメレオン君。彼の悩みはその世界特有の悩みではなく、多くの中高生が抱えるものであり、ひょっとすれば大人ですら時には思い悩むものです。

「でも最近になって気づくのだ、結局は偽物でしかないと。」

この一言は普遍的な嘆きなのです。

『どこまで突き詰めようとも私たちは世界と切り離された一個人にはなれないのでは?』

思春期の人間は往々にしてそんな風に自他の区別を付けることが困難であると感じ、より明確な個の確立を目指します。情報に満ち溢れた現代、上には上がいることを思い知らされる事の方が多い。挫折を味わうことも一度や二度… 続きを読む