Report80: 剣が峰の四人
「すまないな……メガミよ」
「いや、非常事態だ……構わん」
傷だらけになった車体を見て、メガミはそう零した。
「それよりも、どうする? 敵は上の一体だけか?」
切り替えるように、メガミが尋ねる。ロジーとカメコウを交互に見やり、返事を待った。
「フン、大学全てがグルだった場合、俺達はお終いであろう――」
ロジーはタバコに火を着けると、そう切り出した。
メガミはこくりと頷く。カメコウは怪訝そうな顔をしていた。
「――だが、恐らくそうではないと見た」
「ああ。全てではない。駆けつけたのは数名だ。人数が少なすぎる」
メガミ達はそう結論し、固まって上階を目指した。
学校の一部の守衛、もしくは講師陣がグルだと判断したのだ。
実際、それは正しかった。もしも学校関係者の多くがグルだったのならば……今頃は大勢の敵に包囲されていた事だろう。この事件自体、一部の人間が私的な利用で起こしていたのは間違いない。
しかし、銃声を聞いて追っ手が徐々に集まりつつあるのを……彼女達は知らなかった。
上階へと向かう途中、ラッシュを放置しておくと危険だと判断した為、メガミが背負った。
女性ではあるが、三人の中で一番力があったのだ。
三人で周囲を警戒しつつ、階段を利用する。エレベーターは敵の仕掛けがあるか、待ち伏せされる可能性が高かった為、使用しなかった。
「で、どうするのだ。メガミよ」
「そうだな……カメコウが戦力として役に立つか、が肝だと思うのだ……が」
痩せ型とはいえ、体重六十キロ程のラッシュを背負って階段を上るのは中々の苦行である。
汗を垂らしつつ、メガミは答える。そして、何やら気配を察知し、階段の踊り場に嵌め込まれた窓から外を見やった。
「まずいな……増援だ」
「フン、来たか。何人だ?」
メガミが視認したのは、懐中電灯を持った守衛らしき人影だった。
守衛というのは警備会社の人間ではない。施設や土地の管理者から直接雇用される職業だ。即ち、敵は警備会社の人間ではないという事である。
であれば、雇い主が誰なのかが問題だろう。雇い主はこの件に絡んでおり、親玉である可能性がある。だが、守衛が直接売人と繋がっている場合、雇い主は無関係という事になる。
守衛と雇い主、両方が売人と繋がっている可能性もあった。
それらが渾然一体となり、メガミ達の頭の中で渦を巻いているようだった。
「五、いや六だ。……待て、車両が一台向かってきているぞ!」
面倒だ、とロジーが嘆息する。
強力な武器は今回、全員持ってきていない。車両は一階に突っ込んだまま。半壊状態だ。現在は三階部分。銃撃してきたポイントからして、このフロアに狙撃手が居る。そいつを倒したとしても、今度は無事脱出しなければならない。
「フン、ここまで追い込まれたのは……連続テロ事件以来、か」
「そうかもしれんな」
廊下を歩いていたメガミが、教室の前で止まった。そして右腕を上げる。「止まれ」の合図だ。
ロジーがリュックから手榴弾を取り出し、メガミと視線を交わす。ハンドサインでカウントして、三つ数えた瞬間、メガミがドアを蹴破った。
コンマ遅れて、ロジーが手榴弾を室内に放り込む。それとほぼ同時に、中から自動小銃による攻撃を受けた。
直後に起きる爆発。一瞬で窓ガラスが粉々に割れた。設えられていた机と椅子が爆風で吹き飛び、五人の顔に熱風を浴びせる。
粉塵で視界が閉ざされる中、リセッターズ陣営は様子を窺った。すると狙撃手の男が動いた。
男は爆発の瞬間、ロッカーを盾にして防いだのだ。
「生きてるぞ!」
「は~い!」
メガミが声を投げると、カメコウが動いた。
メガミはラッシュを背負っていて動けない。代わりに、カメコウが作戦の要なのである。
教室の出入り口は前と後ろ、二箇所あった。メガミとロジーは前。カメコウは後ろに陣取り、初手が失敗したら、カメコウが後ろ側から攻撃する手筈となっていた。
似合わない拳銃をその手に、何発か男へと発射する。すると、その内の一発が相手の頭部に命中した。
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