カニバリゼーション・マーケット

Report72: 喰う者、喰われる者

「大きな依頼が来た」


 改まった態度で、メガミが言を発した。いつにも増して口調には鋭さが感じられる。

 時刻は夕方。一頻りの仕事を終えた後、俺達は事務所に召集させられていた。

 どうやら大きな仕事が入ったらしい。


「大学への潜入調査だ」

「そいつはスゲェな」


 ゾフィがニヤリと笑った。彼は缶ビールを勢いよく開栓させると、一口飲んだ。

 最近はリオという銘柄のビールを愛飲している。暑い夏季はシンハー、チャーン等ライトな味を選択し、寒い時期は少し濃い目のものが良いのだとか。この前、本人がそう言っていた。

 リセッターズでは、仕事終わりは飲んでも良いという暗黙の了解がある。ゾフィの中ではもう、今は終業後という扱いなのだろうか。

 俺も一杯飲みたい所だが、耳を傾ける事にした。


「大学生の失踪事件が相次いでいてな。具体的には――」


 メガミは机の上の紙を見ながら続けていく。

 曰く……ここ最近、若者の失踪事件、それから不審な死を遂げる事件が連続して起こっているようだ。被害者は特筆して大学生に多い。

 で、その筋によれば、事件は人為的に起こされているようなのである。

 つまり、被害者は巻き込まれ、殺されたと言っていい。即ち殺人事件だ。


「――生徒の親から複数、そういった情報が寄せられている。事件解決を願う声も少なくない」



 今回、某大学の医学部に潜入調査するようだ。入手した情報を整理すると、どうやらこの医学部が裏で闇ブローカーと繋がっているとの事。人を拉致しているという噂があった。

 あくまで噂の域を出ないもので、最初は小さな火種だった。インターネットの匿名掲示板に数回、そういった内容のものが寄せられており「□□□の三号館、五○五号室……臓器を捌いていた」、「○○教授、これは人身売買では?」など、関係者しか知り得ないような情報が投稿され、徐々に見過ごせないものへと変わっていった。


「拉致した人間の臓器を売り捌いているって事か……えげつねぇ事をしやがる」

「そんな話、フィクションだと思っていたけど……」


 ゾフィが苦い顔で吐いた。それに対し、俺も感想を漏らす。

 実際、人身売買なんて一昔前のマフィアとか、古代に行われていたようなイメージがあるんだけど……。


「フン、ラッシュよ。裏社会では今も相当な数でやり取りされているぞ」

「ああ、ロジーの言う通りだ。温床となっているのはネットだ。ダークウェブが主流らしい。ショッピング感覚で人肉が買えるらしい」

「うえっ……そうなんだ」


 ロジーの言葉をメガミが付け足した。

 ネットか。時代はオンラインだと思っていたけど、やはりというか、何というか。

 電話、包丁、拳銃……便利な道具ってのは、時に悪用されてしまうものだな。

 人間の命を商品感覚で売っている。全く、嫌悪感を覚える。

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