Report62: ファンクラブの戦い(後編)

「ぐっ……!」

「チィ、ここまでかよ……くだらねぇ人生だぜ、全く」


 気息奄々として万事休すかと思われた矢先、しかしリセッターズに女神が舞い降りた。リセッターズに味方するファンクラブ会員が徐々に集まり始めたのである。


『この命を捧げます!!』

『成敗! 成敗でござる!!』

『フオオォォオオオッ!! メガミたんをお助けするぞォォ!!』


 オタクが集結し、強大な悪へと立ち向かう瞬間であった。ある者は武器を取り、ある者は捨て身の特攻を仕掛けていく。非常に乏しい戦力であった。

 その暴虎馮河の姿にメガミも胸を痛めた。


「皆……すまない。ありがとう」


 だが事態は一転する。メガミの涙の一声で、味方となった会員達に力が溢れ出した。

 それはファンクラブ内部の分裂していた穏健派を巻き込みつつ、次第に勢力を増していく。物の数分には、かくして三面六臂の大活躍を見せ付けた。

 そこには外見の美醜など関係ない、人々の類稀な結束力を感じさせるものがあった。だが、感動的である筈なのにどこか汗と脂にまみれた薄汚い絵面であったのは、密かに揮毫しておく事にする。


 結果として形勢が逆転し、一部屋一部屋をオタクが蹂躙していった。時には勇猛な槍となり、時には肉の壁となりて、進軍していく。

 取り巻きを大量に引き連れたメガミは面食らった様子であったが、遂にはファンクラブ会長の部屋までやって来た。趨勢は決したのだ。

 会長室に入ると、既にオタク達による肉の輪が出来ていて、真ん中に会長が座していた。何発かブチ込まれており、衣服はボロボロになっていた。その横には縄で捕縛されたオタクが一人居たのだが、メガミはそれがカメコウだと気付く。


「ああ、メガミ様か……全く、予想外だ」


 会長が口を開いた。逃げ場を完全に失い、観念していた。

 予想外――それは会員の背反についてなのか、それとも底力を見誤ったのか。それともメガミに出会えた事か。

 メガミはその言葉の続きを待つことはしなかった。

 この状況を見て、全ては理解できたからだ。

 カメコウはファンクラブに拉致されただけ。理由はフィギュアの製造、販売を独占する為。


「そこに転がっているのは私の部下だ。一応聞くが、攫ったのはフィギュアを使って金稼ぎをする為……で間違いないな?」

「ああ、そうだ……。あとは写真も……」


 写真? とメガミは聞き返した。会長の言葉は、フィギュア以外の何かを暗に示していた。


「まぁいい。あと、仮面の男について聞きたい」

「仮面……」

「そうだ、ナイフを持った仮面の男だ。奴は何者だ!」

「い、一体何の話だ……?」


 メガミは会長の眼を見据えた。そこには純粋な恐怖のみが映っていた。

 惚けているのではないかと考えたが、どうやら本当に知らない様子だとメガミは見限った。


(仮面の男はファンクラブと繋がっていない……?)


 暫し思いを巡らす。顎に手を当て、一連の情報を思い返してみる。

 そこへゾフィがやって来た。ようやく追いついたようで、カメコウの縄を解くと、脈を確認する。

 そうしてカメコウが無事だと分かると、溜め息を漏らした。肩をすくめ、ロジーから貰った煙草を吸い、装備していたアサルトライフルを担ぎ直す。


「まっ、金儲けを企む連中は多いって事だな」

「ああ……そうだな」


 腑に落ちないメガミであったが、これ以上の情報は望めないと判断する。そして撤退を決めた。


「ラッシュ、タックラーに連絡しておけ」

「え、あ、はい!」


 ラッシュを呼びつけ、そのまま回れ右をして帰っていく。メガミが「任務終了だ」と告げると、周囲のオタク達から大歓声が沸き起こった。

 その様子にラッシュは苦笑いし、携帯電話を取り出す。以前スワンナプーム空港で出会ったタックラー署長に、事件の顛末を説明するのだった。

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