Report24: 危機

「俺は右の奴を仕掛ける。ラッシュは左! 何でもいい、足止めしておけ!」

「了解!」


 俺にそう告げたゾフィはそそくさと去っていってしまった。何でもいい、と言うが……さて、どうするか。銀行強盗のカウィンを攫った時もそうだが、《リセッターズ》は毎度ぞんざいな作戦である。


『ゾフィ、ラッシュ、任せる。こっちはJゲートへ向かう。そのままコンコースDだ……援護を頼むぞ!』


 メガミからの連絡が入った。どうやら護衛対象はエスカレーターから真直ぐ、前方のゲートに入るみたいだ。


「どうも、すいません。お手洗いってこの辺にありますかね?」


 ゾフィに指示された通り、俺は足止めを試みた。メガミに歩み寄ろうとする不審な男に声をかけたのだ。他のテロリストがメガミ達と接触するよりも、早かったようである。メガミ達の付近に不審な奴等は見当たらない。

 俺が話しかけたそいつは中東っぽい風貌で、髭を生やしている男だ。目は猛禽類のように鋭く、危険な香りがした。


「あぁ? そこにあるだろ!」

「え、どこですか? すいません、人が多くて……」

「悪いが急いでいるんだッ! 他のヤツに聞いてくれ!!」


 男は俺を睥睨すると、苛立ちを露にして突き飛ばしてきた。相当な力だった為、みっともないが、俺はすっ転んでしまう。

 そのままチラリとゾフィの方を見てみると、フードを被った不審な男と何か揉めているようだった。あちらは大丈夫だろう。


 メガミは……まだ手続き中だ。マズイな。まだ時間が掛かりそうだ……。

 俺が話しかけたテロリストは、歩を早めてメガミ達の下へ向かっている。

 もう暫く足止めしなければならない。……ええい、仕方ない。


「……ちょっと、突き飛ばすのは無いだろう! おい、あんた!」


 俺は起き上がると、タカのような目をしたその男の肩を掴み、そいつの前に立ち塞がった。

 すると男は、間髪入れずに懐から拳銃を取り出した。俺は思わず、嘘だろ、と相手の顔を凝視する。


 パァン、という銃声が空港に響いた。一瞬の静寂の後に、その場に居る人々のざわめきが反響する。

 咄嗟に身を捻ったが、俺の腕を掠めていた。焼けるような、ジンジンとした痛みが走り、白いシャツに深紅の血が滲んでいく。


 銃声を合図に、他のテロリスト達もが一斉に凶器を取り出した。それを見て、鈍感だった大衆もようやく事態に気付いた。

 周囲は騒然となり、我先にと逃げ惑う姿はまさに狂瀾怒濤。「落ち着いてください!」と叫ぶ空港職員や、ゲートを勝手に越えようとする旅客で紛然としていた。


 視界が狭窄していく……。俺は、意識ごと暗闇に飲まれていくのだった。

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