Report16: 善悪の拠り所
「!? 何だお前ら!! 動くんじゃない! 人質を殺され──ッ!?」
「きゃあああっ!」
突然の事態に狼狽する犯人が、握り締めた拳銃をこちらに向けた時、既にメガミが先手を打っていた。
メガミのグロック17が火を吹く。弾丸は相手の拳銃に命中し、弾き飛んだ。人質が悲鳴を上げる。
「行け、ラッシュ!」
呼ばれた俺は、何となく察してカウィンに突撃し、タックルをかます。俺の身体諸とも、見事に彼はブッ飛び、机の上の事務用品やら書類やらを盛大に吹き飛ばして気絶した。
タイに来る前、事務所で缶詰になってトレーニングをしていたが、体得した技術が生きた瞬間と言えよう。
「急げ! 今の銃声で警察が乗り込んでくるぞ!」
「人質は!?」
「放置だ!」
心中で一瞬「放置かい!」と思った。だが《リセッターズ》は限りなく悪に近い正義。金を貰えれば割りと何でもやる。今回は人質救出の依頼ではない……。
「け、警察の方ですか……?」
「あー、いや……えっと」
震えながらも、何とか口を開く人質の女性。さぞ怖い思いをした事だろう。手を縛られて、床に転がされていた。制服を着ているから、この銀行の職員と思われる。
俺はその女性を横目に見つつも、心の中で謝罪した。
「ラッシュ、急げ!」
メガミが呼んでいる。俺は女性の拘束も解かず、無視して走り出した。彼女の「え、ええ……? ええ!?」という言葉にならない疑問が聞こえてくる。振り返れば唖然とした様子でこちらを見やっていたが、俺は先を急いだ。
これって誘拐、拉致? それとも幇助? そもそも、ぶっ飛ばしちゃったんだが……?
男一人を引き摺りながら、俺は屋上を目指す。そんな事が頭の中をぐるぐると回っていた。
それでも必死に階段を上る。そしてやっとの事で屋上に辿り着いた。
扉を開け放つと、ヘリコプターが乗り付けてあった。犯人が要求していた逃走用のヘリだろうか。ヘリを操縦しているのは見知らぬ男性であった。
「乗り込むぞ! カウィンを押し込め!」
「え? あ、はい!」
メガミに言われ、気絶しているカウィンこと犯人をヘリに押し込んだ。俺達もこれに乗るようだ。
「犯人の要求を飲んで用意したように見せかけた、私達の逃走用ヘリだ! 急げ!」
メガミがそう教えてくれ、釈然としない俺を急き立てる。
二人して乗り込んだ所で、警察が屋上に雪崩れ込んで来た。そして銃を一斉に構える。
「警察だ! 逃げるな、撃つぞ! お前らはソイツの仲間か!?」
警告を歯牙にもかけず、ヘリコプターは宙に浮き始めた。
威嚇のつもりか、何発か機体に銃弾を撃ち込まれる。それを牽制すべく、メガミもM16で応戦する。アサルトライフルを使用しているのを初めて間近で見たが、凄まじい迫力だった。
ヘリの操縦席の男性も加勢し、警察に向かって何かを投擲した。
「――爆弾ッ!? 何か投げてきたぞ! 待避! 待避ーッ!」
警察が血相を変えて屋内へと撤退する。どうやら手榴弾を投げたらしかった。その間に俺たちは飛び去り、逃亡した。
『ば、爆発しないぞ……?』
『これは……ウンコだ!』
『動物の……糞だ……』
警察が屋上で何やら揉めているようだった。
我々はヘリコプターを用意していない。だったら、あのヘリに乗っていた連中は何者か、犯人の一味か、と。そんな会話をしているのだろう。
米粒大になった人影を、俺は遥か彼方から眺めていた。
初の、任務達成の瞬間であった。
ラッシュこと大森精児、即ち元商社マンは、経歴の一切をリセットされ、そして、晴れて犯罪の片棒を担ぐようになったのだった。
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