Report17: 新たな仲間
銀行強盗を犯したカウィンは、国務大臣の元へ密かに連行された。今、どこかで幽閉されているらしい。
結局、事件自体は闇に葬られた。銀行強盗発生の騒ぎを聞きつけて警察が突入したら、人質が縛られているだけだった。銃弾と、争った形跡が見られたが、金も盗まれていない。
警察は、捕縛されていた女性の話を元に色々と推理するのだが、真相は分からず終いだ。
事件の全容を知る一部の人間を除いて、国務大臣の体裁は守られたのだ、と言える。
「流石は政治家、太っ腹だな。倍額の要求にも、素直に応じてくれたぞ」
メガミは足を組んで、机の上に腰掛けた。
実は、提示された報酬を受け取る際、メガミがごねた。ごねたというか、正確には、脅迫であった。
依頼主の国務大臣に「金が足りない、もっと寄越せ」と詰め寄ったのだ。すると、何を言っているんだ、馬鹿馬鹿しい、と申し出を却下する大臣。
しかし「事件をバラされたくなければ……」、とか「チップくらい、当然だろう?」と捲し立てるメガミに降参したのか、渋々と支払うのだった。
今、事務所は軽い打ち上げのようになっていた。俺達はビールを片手に、一杯やっている最中だ。
尤も、メガミやゾフィ達は仕事が終われば日常的に飲んでいるのだが、今日は俺もシンハーを開けさせてもらった。何せ、初の大手柄だ。少しばかり酒を飲んでも罰は当たるまい。
カメコウはお酒に弱いらしく、あまり進んでいなかった。そもそも、仕事が終わっているのかどうかも分からない。だが、ゾフィに勧められ、半ば強引に宴会に参加させられているのだった。
そうして、お互いの健闘を祝い、その夜は更けていった。
次の日、いつも通りに事務所へと赴いた。先に到着していたゾフィは少し酒臭い。メガミとカメコウは……平常運転のようだ。
それと、いつものメンバーの他に、ヒゲモジャの男性が佇んでいた。
確か昨日、カウィンを連れ出した時に、ヘリコプターを操縦していた男性だ。
全員揃ったのを確認すると、メガミは「新人が入った」と前置きしてから、その男を紹介した。
「仲間を紹介する。──コイツはロジー。糞尿愛好家だ」
その紹介を聞いて、何故だか俺は悲しい気持ちになった。
人によって罪の意識は異なる。それは世代、環境、時代、国……ありとあらゆる要因で変化するものだ。だとしたら、何故彼はウ〇コに手を染めてしまったのか。ああ、いや、ウ〇コで手を染めるというと、即物的なウ〇コで物理的に手を茶色に染めているように聞こえるのだけど、そうではなく……「犯罪に手を染める」といった表現上の意味合いであり……いや、もしかしたら染めているのか?
「よろしく頼む、ロジーだ」
メガミに紹介されたのは、中東出身っぽい顔つきで、ヒゲモジャの男だった。
新人といっても、フレッシュな印象は無い。四、五十代ぐらいかもしれない。かなり年齢が行ってそうだ。
体は大きくなく、膂力は感じない。しかし、幾多の死線をくぐり抜けてきたような、肝の据わった雰囲気を感じた。
「おいおい、待ってくれよ。そんな変態ヤローと同じ空気を吸うのは御免だぜ」
顔を顰めたのはゾフィだ。二日酔いなのか、その顔にあまり元気はない。
確かに、俺たちは犯罪者だ。しかし……その、受け入れられない趣味や嗜好、経歴はあると思う。
確かめるまでもないが、糞尿が好きって事なのだろう。身に纏ったその薄暗いオーラは、性癖によるものなのかもしれない。
随分とダークな面々が揃ったものだ。痴漢に盗撮犯、暴漢、そして自称“女神”の凶悪女。その次はド変態……か。
ニューフェイスがオヤジってのは、ハローワークか何かの冗談だろうか。
「……フン、下らんな。此処に居るのは全員変人の筈だ。自分だけ真っ当な人間の振りか?」
「何だと? やんのか、テメェ」
「よせ、お前ら!」
ヒゲモジャのオヤジ、ロジーがゾフィに噛み付いた。ゾフィも売り言葉に買い言葉である。
それをメガミが一喝して、二人とも矛を収めた。それから暫し、剣呑な空気が流れていた。
「まぁ、そう言うな。ロジーは乗り物の扱いに長ける。既に色々世話になっているんだ。それに、もう過去の話だ。そうだろう?」
「ああ……勿論だとも」
独特の、しわがれた声でロジーは肯定した。そして、タバコをポケットから取り出し、咥える。俺の知らない銘柄だった。
カメコウは相変わらずマイペースで、時折「グプゥ……」と発する以外、傍観しているだけである。
メガミが腕を組み、フゥ、と一呼吸する。
「いいか、中庸な人間なんてものは存在しない。
平均とか普通ってのは、異なる二つの方向に居るイカれた人間が作る幻だと思え!」
いいか、覚えておけ、とメガミは発破を掛けた。
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