第30話 残り3日。後編
4人が集まってからの時間は一瞬で過ぎていき、この病室が賑やかだったのか、午後6時を知らせるチャイムはものすごく小さく聞こえた。
「もう、6時か……」
チャイムの音を聞き、時計を見た悲羅義がそんなことを言い、四人とも時間のことを思い出し、解散しなければいけない……そんな空気になっていった。
「私……今日は少し用事があるのでお先に失礼しますね。あの、今日も楽しかったです」
椅子から立ち、急ぐように彩史さんはそう言って、そそくさと病室を出ていってしまった……
「じゃあねってくらい言いたかった……」
悲羅義が病室のドアを見つめながら悲しそうにそんなことを言っていた。
「また明日がありますよ……」
「そうだね……」
花優が元気づけて悲羅義が少し元気を取り戻す。
「明日、か……」
彩史さんがいなくなるまで今日を除くと後2日……悲羅義は、まだ彩史さんがいなくなることについて知らない……。
でも、教えた方がいいんじゃないか?
何故だか、そんな気がした。
「……じゃあ、俺もそろそろ帰ろうかな……」
悲羅義が持ってきたバックを持ち、帰る準備をし始めた。
「悲羅義、ちょっといいか……? 」
俺は意を決し、悲羅義にあのことを話そうと思い呼び止めた。
「ん? 」
悲羅義は俺が呼び止めると歩き始めた足を止め、首を傾げて、どうした? と言ってきた。
呼び止めていざ話そうとすると緊張してるのか、本当に言っていいのかという疑問のせいなのか、心臓の鼓動が早くなり、ドクンドクンという音が聞こえてくる。
「その……彩史さんの事なんだが……」
そう言って言葉につまる。
なんて言えばいいんだろう……
嘘だと思われたらそれを証明する方法はあるのだろう……
そんな心配ばかりしていた。
「彩史さんが後3日で……今日はもう、皆バイバイの時間なので後2日で彩史さんが四十九日を迎えて……消えてしまいます」
俺が言おうとしていた、けど言えなかった言葉を花優が言った。
真剣な顔で表情一つ変えずに花優は悲羅義に言った……。
でも、自分で言うと更に実感が湧いてしまったのか、だんだん悲しそうな表情になっていった……それでも花優は続けて
「私たちが彩史さんと話したり笑いあったりすることが出来るのは後2日だけなんです……言えなくてごめんなさい。昨日とかに言えたらよかったんですけど」
そう言って花優は頭を下げた。あんまり体を動かす事が出来ないからどんなに頭を深く下げようとも首から上をちょこんと前に倒すことしかできていなかった。
それでも目をぎゅっと瞑り、手は思い切り握って悲羅義の返事を待っていた。
「そっか……」
悲羅義は戸惑いも疑いもせずにそれだけ呟いた。
「正直……もうすぐいなくなってしまうんじゃないかって考えたりはしてたんだ。……だって彩史さんは今を生きている訳じゃない」
天井を……空を見上げながら、花優や俺に向けてではなく自分に言い聞かせるように。
花優はその言葉を聞くとゆっくりと顔を上げた。
「教えてくれてありがとう。明日は月曜日だし学校があるから何時に来れるか分からないな……でも、学校が終わったら真っ先にここに来るから」
「分かりました……それじゃあ、また明日」
悲羅義は何かを聞くわけでもなく、花優の言葉を信じてまた、ドアの方に歩き始める。
「悲羅義……その」
「お前は何も変わんないな。1年生の時からさ……。友達っていうのは言い難いことも言えるもんだよ」
そう言って病室を出ていった。
悲羅義の後ろ姿は淋しそうな悲しそうな、そんな雰囲気が漂っていた。
……俺と花優はそれから何かを言う訳でもなく悲羅義と彩史さんが出ていった病室のドアを眺めていた。
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