第4話 少年が生きていた理由

俺は花優の笑顔がとても素敵だと思った。外の景色を見ても何とも思わなかったし、人が笑ってる所を見てもこんな気持ちにはならない。


でもなぜか花優の笑顔はとても素晴らしいと思った。会ったばかりの人なのにこの人には笑顔がとても似合うと思う。


そんなことを考えていると扉の方から(コンコン)とノックの音がした。そして扉が開き誰かがこちらに向かって歩いてきた。「歩呂良くん失礼します」

と言う声とともにカーテンを開けられ1人の女性が入ってきた。


「先生……」


それは俺のクラスの担任の希翁きおう先生だった。

先生は安心したような顔で近くに置いてあった椅子を持ってきて俺の前に腰をかけた。


「歩呂良くん。本当によかった…一時はどうなるかと思ったんだから…」……と、ほっとしたように一瞬悲しそうな顔をした。


「あの…俺はなんで病院にいるんですか?」

そうだ、俺は屋上から飛び降りて死んだはずだ。

なのに、なんでこんなところにいるんだろうか…


「歩呂良くんが屋上から落ちた所を近くに住んでる人が見てて学校に連絡をくれたの。それで先生たちで駆けつけて急いで救急車を呼んでね。……本当はもう助からないかと思ったけど落ちた先が雑草がたくさんあってマットのようになってたのかもね。

骨折だけで済んだの。」


そうか……俺は下を見ずに飛び降りたのか……本当にバカだよな。それに誰かに見られていただなんて。そんなことを考えていると……


「ねぇ、なんであんなことしたの?誰かに押されて落ちたわけでもなさそうだし……もし死のうだなんて考えて落ちたならどうしてあんなことしたの?」


先生は怒りながらなのか、何かが怖いのか少しだけ声が震えていた。でも、俺が飛び降りる理由はあまり人に話したくないし、先生が知る必要はない気がするが……「どうしてなの?」と問い詰めてくる。


……これはさすがに答えないといけないのだろうか。それとも何か簡単な嘘でもついておくか?


……いや、これは言わないといけないのかもしれない。それに、ここにいる限り俺が逃げることはできないからな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る