第148話 あのねあの子はアサリちゃん

 愛車ジムニーの有用性を納得してもらったところで俺たちは旅籠に戻り広間でぐったりと休んでいた。

 明日までにこのに慣れないとな。

 そうこうしてるうちに。

「お客さんたち、夕飯の支度ができましたよ」

 と、宿の女将さんが声をかけてきたので食事処に移動する。

 なんでも夜には居酒屋のような営業をするらしく宿泊客には本営業前に夕食を済ませて欲しいらしい。

「な、なななな!

 なんじゃぁこりゃあ!?」

 別に俺は刺されたわけではないしジーパンも履いていない。

「あ、洋一殿が煮物を食べたいと言っていたので女将に頼んでいたでござるよ」

 お膳の上にはブリ大根にかぼちゃとひき肉の煮物、更に手羽元を煮込んだ物が並んでいた。

 刺されてはいないが俺には刺さるメニューだ。

「いただきます」

 俺が席について言うといつものごとく。

『イタダキマス』

 の声と共に。

「頂きます」

 と、リューバさんの声。

 やっぱここ日本なんじゃねーの!?

 そしてまずはブリの身と味の染みた大根を一緒に一口...美味い!

 生姜で臭みを消したブリの旨味と味がしっかり染みて箸で簡単に切れる大根の深味。

「これは!白米が止まらない!」

 さらにかぼちゃとひき肉の煮物!

 これまた美味い!

 煮物は一度冷まさないと味が染みにくいので作ってすぐ出すような俺の料理だと難しいのだ。

 そしてこの手羽元、見ただけでホロホロに煮込まれているのがわかるはその上に乗っているのは細長く刻まれた生姜か?

 その上にはまるで天一のスープのような白濁した煮汁がかかっている。

 丁度通りかかった女将さんに声をかける。

「すみません、この煮物ってなんですか?」

「手羽元の生姜煮ですよ」

 ほほう、生姜煮か。

 大根や茹で卵と一緒に醤油やポン酢で煮てあるものはよくあるけど具材は手羽元と生姜だけである。

 どれひとつ...と箸で持ち上げてパクリ。

「うっわぁ!トロットロ」

 思わず声に出した、そして美味い!

「女将さん!この煮物の作り方って難しいんですか?」

 思わず聞いていた。

「簡単ですよ、手羽元に小麦粉をまぶして焼き色が付くまで焼いたらひたひたの鶏がらスープと生姜を入れてじっくり煮込むだけです。

 鳥の旨味を凝縮させるのでアク取りもしなくて手軽なんですよ。

 四半刻から半刻も煮込めばトロトロになるので仕上げに塩で味を整えるだけで出来上がりです」

 一刻ってたしか2時間だっけ?

 30分から1時間ってとこか。

「ありがとうございます!今度やって見ます!」

 こんな簡単にこの味が出せるのなら是非ともチャレンジしなければ!

「すみません遅くなりました、アサリのお味噌汁です」

 そう言って女将さんがお椀を配る。

 まさかの貝汁まで!?

『うわぁ!美味しい!』

 一口飲んだカリンがそう言う。

『アッサリと言う割に濃厚ですわね、美味しいですわ』

 というマリアの声に。

 そっか、普段海も川も無いところにいるから貝類には馴染みがないのかと思い当たる、カリンとメリルにインスタントのシジミの味噌汁は出した事があるがあれは殻無しだしな。

「アッサリじゃなくてアサリな、この貝の名前だよ、どれ」

 俺はシジミよりアサリの味噌汁の方が好物なので期待しながら一口。

「あー、ダメだ〜!美味すぎる!」

 そう言いながら殻からアサリの身をヒョイパクヒョイパクと食べていく。

 味噌汁の貝の身は全部いただく、それが俺のジャスティスなのでシジミよりアサリが好きなんだ。

 仕上げに貝が無くなった貝汁をご飯にかけてしまう、お行儀が悪いがめちゃくちゃ美味いんだコレ。

 ポイントは全部かけないこと、底の方に欠けた貝の殻とかが溜まってるからね。

 汁かけご飯を堪能した俺はおかわりをもらって更に生姜煮の汁かけご飯まで!これ雑炊にしても美味そうだ。

 そうして美味しいご飯に満足した俺たちは翌日に向けて床についたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る