第17話 夜を越えるたびに悲しみ過ぎるたびに

 洋一さんが建てたテントに入りキャンプコット?という組み立て式ベッドで寝るように言われて私は横になる。

 洋一さんは

「マットとブランケットがあるから平気ですよ」

 と言って私に寝袋という寝具も譲ってくれた。

 気候が不安定なこの地方では夜になるとかなり冷えるのだがとても暖かい。

 私が普段小屋で使っている厚手の布シーツとは段違いだった。

「もう眠りました?」

 洋一さんに尋ねられた私は

『いいえ、まだ起きています、でもこんなに暖かいとすぐ寝ついてしまいそうです」

 と答える。

「今日は朝からとんでもない事の連続だったので眠気が来ないんですよ、少しお話ししても良いですか?」

 そう問う洋一さんに

『それでは眠くなるまでお話ししましょうか?」

 と答えてから

『洋一さんはどんな世界から来られたのですか?』

 いちばんの疑問をぶつけてみた。

「そうですね、とても平和なところですね、餓死者もほとんど聞きませんし猛獣の被害もたまにあるぐらいで命を落とす事はあまり心配しない世界です、おっと世界というか国ですね、別の国だと飢えている人も居るし獣に命を奪われる人もいます」

 私が想像しながら思いを馳せていると。

「1番の違いは魔法の有無と人以外の人種が居ないという事ですかね?」

 と続けた。

 魔法がない世界はとても不便そうだし私やドワーフ、獣人のような亜人が居ないというのはなぜだろう?まさか...

ヒト種が全て滅ぼしてしまったのですか?』

 そう問う私に洋一さんは笑いながら

「もともと居ないのですよ、ただ伝承やお話などの娯楽の中に想像上の者として出てはくるのでカリンさんのお話を聞いてもすんなり飲み込めた訳です」

 聞けば聞くほど違う世界なのだと実感する。

 ついでに気になることも聞いてしまおうと思いついた。

『私を雇う契約はしたのですが今も私に寝台を譲ってご自分が床に寝るなどどうしてこんなに良くして下さるのですか?』

 いちばんの疑問だった、主従であれば全く逆の待遇であるはずなのに。

「あー、文化の違いもあるんでしょうけど俺が居た世界では女子供を差し置いて自分だけ良い待遇を得ようとする男性は嫌われるものなんですよ、それに聞いた話では貴女は辛い人生を送って来られてるから俺ができる範囲では楽に楽しく過ごして欲しいんです、もちろん通訳の仕事はきっちり妥協なしでしてもらいますけど」

 それを聞いて私は涙が溢れて来たが必死に堪える、ダメ!このまま泣いたら

『す、素敵な国なんですね!流石に眠くなって来たのでお話の続きは明日で良いですか?』

 私は涙をグッと堪えてそう言った、このまま話し続けたら私の心の扉が開いてしまう!

「ああ、遅くまで付き合わせてごめんね、おやすみなさい」

 洋一さんはそう言って目を瞑ったようだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る