case6 その幸せな未来を壊せ

傷が癒えて

 転移者が復活して暴れまわった事件から数日経ちました。その間に隊長が上の人に怒られたり、室長が転移者の持っていた乗り物を解析を始めて、それをカルセさんが必死になって止めたりしていたそうです。私は通路上にあった機雷の除去が終わった後に能力課の奥にある隊長が入院していた所に入れられて昨日まで治療してもらっていました。今は私の腕の傷も塞がり、まだ包帯が巻かれていますが日常生活を送る分に問題ない状態まで回復してるみたいです。


「今までお世話になりました」


 キャリーケースを横に置きぺこりと頭を下げて、担当の人にお辞儀をします。


「いえ、こちらこそ申し訳ありません。本来ならもう少し早く退院するはずでしたが、他の事に人員が割かれてしまったので遅れてしまいました」


 先の転移者との戦いで私達にも少なくない被害が出ていました。私は何度か転移者から電撃を受けましたが、その旅に魔法で回復されていたので、あの時の傷は腕の傷しかありませんでしたので、軽傷者に分けられて他の重症患者に人員を割かれていて私の傷は少し後回しになっていました。


 ですが、そのことは事前に聞いていましたし、重傷者を優先するのは当然のことだと思っているので特に私は気にしてはいません。聞くところによれば手足が無くなってしまっている方もいるそうです。そのことと比べたら私の傷なんてかすり傷みたいなものですね。


「いえいえ、忙しい中こうして時間を割いてくれただけでもありがたいです」


「そう言ってくれるとありがたいです。見送りはここまでになりますが、なるべくここのお世話にならないように気を付けてください」


「はい、改めてお世話になりました」


 もう一度お辞儀をして部屋を出ます。部屋を出て廊下に出るとやはり人の往来が激しいです。まだ重症患者が多いので忙しいのは分かっているのでなるべく邪魔にならないように通路の端を歩いていきます。エントランスに出るとさらに人の数が増えました。面会希望等様々な理由で人がごった返しています。ここもなるべく人に当たらないように端を通りながら出口に向かいます。


出口から通路に出ると向かいの壁にバロックさんとセラさんが寄りかかっていました。


「セラさん!バロックさん!」


 キャリーケースを引きながら二人に駆け寄ります。二人とも声に気が付いて手を振りながら駆け寄ってきます。


「退院おめでとうございます。アイビーさん荷物持ちますよ」


 バロックさんがキャリーケースを代わりに持ってくれました。


「ありがとうございます…あの隊長達は?」


 こういうのは大体隊長と誰かがセットになっていつも迎えに来ていたのですが今回はどういう訳か来ていません。何かあったのでしょうか?


「隊長とユッカさんは上に怒られてから、現場の復旧作業の手伝いと並行して破壊した施設の始末書の作成をしているのでいないんですよ~」


 そう言えば隊長、転移者を倒すために『ソ』に誘導して、道中の壁や天井を破壊して挙句の果てには室長から渡された乗り物を二つとも壊してしまったそうなので怒られてしまったんですね。と言うか私達の上司の事もこの時初めて知りました。まだ顔も見たこともなかったのでその内会ってみたいです。


「ナギさんは監督的なことをしていて忙しいので、比較的暇な私とセラさんが来たということです」


 そう言えば通路も人通りが多いですが、それも台車とかで瓦礫を運んでいる人が多いですね。多分『ソ』の中に入れて分解したり、新しい部品を生み出したりしてもらう為に運んでいるのでしょう。この世界のほぼ全ては『ソ』から生み出された部品によって構成されているので天井や壁が崩れたら『ソ』から材料を作ってもらう必要があるんです。


「なるほど、とりあえず迎えに来てくださってありがとうございます」


「いえ、それよりも怪我の具合はどうなんですか?」


 バロックさんが私の両腕に巻かれている包帯を気にしながら聞いてきました。


「傷は塞がっていますがまだ完治していないので、銃を撃ったりは出来ませんが普通に生活する分には大丈夫だそうです」


「それなら大丈夫ですね。今は復旧作業の手伝いで手一杯仕事は他の隊に任せているので銃を撃つなんて事はありません」


「それなら手伝いを…」


 皆さん何かしら作業しているのに私だけ何もしないのは悪い気がします。


「駄目ですよ~復旧作業は瓦礫の撤去とか運搬とか割と重労働が多いので、まだ傷が癒えきっていないアイビーちゃんを現場に行かせる訳に行かないですよ~」


 セラさんが私の手を引いて753部隊の部屋の方に歩き出しました。確かに重労働は出来ませんが、それでも一人だけのんびりしたくはありません。


「でも私一人だけのんびりするわけにも…」


「のんびりするのも仕事です。無い事も休息あっての仕事です」


「でも…」


「それでしたら~隊長とユッカさんの始末書を書くのをお手伝いしてはいかがでしょう?二人ともただでさえ二つの仕事を並行してこなしているので手伝ってあげれば多少は楽になると思うですし、腕にも負担は少ないと思いますがどうですか~?」


確かにセラさんの言う通り、それなら腕にあまり負担をかけずに出来そうですね。ちょっと何をすればいいのかは分かりませんが、それは隊長に直接聞けばいいですね。


「それなら私でも出来そうです。戻ったら早速隊長に言ってみます」


 そうと決めたので早く戻りましょう。早く部屋につくために早歩きをしながら振り返って二人を急かします。


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