廊下を駆ける

 爆発の中、三台のバイクが通路を駆ける。転移者の乗ったバイクについている銃から弾が発射されるが、ユッカがハンドルを切って躱す。当たらなかった銃弾は前方のまだ処理しきれていない前方の機雷に着弾して次々と爆発を引き起こしている。


「これいいっスね!楽に処理できてるっスよ!」


 バイクは爆発の煙の中に突っ込んでそのまま煙の中を突っ切る。私も後ろから前に銃口を向け機雷の処理をしているが、後ろからの銃弾の方が明らかに処理している数が多い。


おかげで前方の機雷に限っては、ほとんど処理出来ているようで爆発が少なくなっている。


「もうすぐ、通路を抜けるで!」


 ナワニが言い終わるのと同時に視界が開けて墓場から出る事ができた。


「よし!次は創造課に行くぞ!」


 ユッカの背中を軽く叩いて周りを見れば、転移者に見つからないように隠れている創造課の面々が見える。


「でも、奴さん本気出して来たみたいやで!」


 え?本気?ナワニの言っていることがよく分からずに後ろを見ると転移者のバイクの周りに炎や水等、様々な物体が浮遊している。


…なるほど、魔法ね。数多いな


「ユッカ、これから後ろの転移者から結構な数の魔法が飛んで来る。私も迎撃するが駄目だったら頑張って避けてくれ」


「…は?」


 ユッカは一体何言っているんだと私と同じく後ろを振り返るが、直後に全てを察した顔をして前を向いてギアを上げた。エンジン音が轟いてパイプからガスが吹く。徐々に距離が離れるのを見て転移者も速度を上げると同時に魔法が襲い掛かってくる。


「ユッカ!」


 今まで走っていた場所に魔法が着弾して爆発したり削れたりしている。反撃とばかりに転移者に向かって発砲するが、あのデカいタイヤと寝そべるのに近い体制での運転のせいで命中しない。


「当たらないな」


「頑張ってくださいッス。隊長」


「しかしだな…ッ!よけろ!」


 何かを言い切る暇もなく今度は転移者の乗っているバイクからの射撃が飛んで来る。ユッカが何とか反応して躱しているが少しでも遅れれば命とりなのは、今までの様子から分かる。


「何とかできないっスか隊長!」


 ユッカが悲鳴を上げながらハンドルを操作する。当たらなかった魔法が壁や天井を破壊して私達に降りかかる。細かい破片は無視してもいいがそこそこ大きい破片は撃って砕くか躱さないといけない。上に集中していると背後から転移者の攻撃が飛んで来る。上に瓦礫、後方に転移者と魔法の二か所を処理し続けなければならないのはキツイ。ナワニも自身の事で一杯一杯で、とてもこっちを助けて欲しいなんてことを言える状況ではない。


「という訳で、ユッカ頑張って避けてくれ」


「何が、という訳っスかァァ!」


「なに、少し休憩できる時間くらいは作る」


 悲鳴にも似た叫びを聞いて前方の天井に向かって撃ち続ける。先ほどの天井に当たった一撃が崩れずに残っている。ここを崩せれば!


「ユッカ、ナワニ!回避を止めて全力で突っ走れ!」


「どうなっても知らないっスよ!」


 ユッカがギアをさらに一段階上げて加速する。私は後ろを振り向いて避けない分飛んで来る魔法を撃ち落とす。周囲の攻撃が一段と激しくなり落とせなかった魔法がバイクのすぐ横で爆発して床の破片がバイクのパイプや側面に当たる。


「隊長これ以上はきついっスよ!」


「まだだ!」


 私は前を見てグレードのピンを抜く。まだ距離があるし二人乗りしているからなのか若干速度が出ていない。だったら!


「ナワニ!私の前を走れ!」


「りょ、了解や!」


 ナワニのバイクが前方に入り二つに分かれていた攻撃が一か所に集中して、攻撃がより激しくなる。私のすぐ後ろや側面に魔法が通りパーツが落ちたりしている。しかし、ナワニのバイクが前に出たことでスリップストリームが発生してバイクの速度が上がる。


「…今だ!」


 思いっきり振りかぶってグレネードを天井に投げて爆発させる。嫌な音を立てて天井が大きく崩れて瓦礫が落ち始める。天井が落ち切る前に私達が駆け抜けて、瓦礫が転移者を押しつぶそうと襲い掛かる。


これで転移者が死なないのは確認済みだ。だがここまで加速したバイクでのクラッシュしたのなら多少の損害を与えられるだろう。


そう思ったが、何故かバイクの前輪が車軸ごと横になりバイクが横を向いたまま移動して瓦礫を間一髪で躱した。


「嘘だろ!そこも再現してんのか!」


 私の叫びを無視して、今度はお返しとばかりに魔法を連発して今度は私達の頭上に瓦礫を落としてきた。


「ユッカ!」


「ナワニ!横にそれろ!」


 久しぶりに口癖が無くなったユッカの叫びを聞いて、ナワニの乗っているバイクが横にそれたことで前方がひらける。しかしそれだと加速が終わり確実に間に合わなくなる。


「コンニャロォォォォァァァ!」


 叫び声と共にユッカがバイクのハンドルにあるスイッチを入れた。するとエンジンが明らかに異常な音を出ながらユニットから排気ガスをまき散らし始め加速しだした。ドリフトさせてさらに横倒しに近い形で地面を滑る。バイクの足をかける所とパイプが地面と擦れ火花が出るほどに横になりながら瓦礫の下を通り過ぎる。


「ウラアアァァァァ!」


 瓦礫を通り過ぎた勢いを乗せて強引に車体を起こして走り出す。ホッとしたのも束の間間の抜けた声を上げながら瓦礫を飛び越えるナワニ姿とほぼ真横を並走する転移者のバイクが見えた。


「無事か!今引きはがす!」


私は銃を転移者とナワニの間に向けて発砲して二人を引きはがす。


「そんなことより、見えたで!創造課や」


 ナワニの言う通り前方には創造課の扉が見えた。ナワニは転移者の後ろを走ることで逃げられないようにしている。


「ユッカぶち壊せ!私の責任で!」

「了解っス!しっかり捕まってくださいよ!」


 もう一度ハンドルのスイッチを押し先ほどよりも嫌なエンジン音を鳴らしながらバイクが加速する。一度勢いで前輪が大きく浮いたが、何とか下におろして扉にぶつける。フロントガラスが衝撃で割れる音と扉がひしゃげる音が同時に鳴り、次の瞬間には扉を突破して創造課の中に侵入する。

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